b-41 (かわいい娘が霊界で元気に生きているとわかって) 

 ある日、ミリアムという名の、ひどく取り乱した女性が電話をかけてきて、わたしに助けを求めました。幼い娘が輸血を受けたあとエイズで亡くなったというのです。「あの子が無事だとわかるまでは、とても生きてはいられません」と彼女は言いました。ちょうどキャンセルが出たところだったので、わたしはそこに彼女の予約を入れることができました。
 やがて訪ねてきたミリアム・ジョンソンは、霊媒というものを詳しくは知らないのだと言いました。今は藁にもすがる思いで、誰であれ、ほんのかぼそい光明でも照らしてくれればこんなありがたいことはない、というのです。わたしは彼女をすわらせ、わたしの仕事について詳しく説明しました。彼女は少し不安そうでしたが、わたしが危険人物でもペテン師でもないとわかると、緊張がほぐれてセッションを受け入れられるようになりました。
 わたしはいつものように祈りを唱えてからリーディングを始めました。数分ほどして、わたしの頭のなかにかすかなささやき声が聞こえてきました。
 「あなたのお嬢さんがいらしでますよ。長い栗色の髪に明るい緑色の瞳。笑顔がなんとも愛らしい。ちょっとはにかみ屋さんのようですね」
 ミリアムは目に涙をためながら言いました。「あの子ですか? 本当にあの子が来てるんですか?」
 「そうよ、ってお嬢さんが言ってます」
 「でも、わたしにはわからない。つまり、あの子が何か確かなことを言ってくれないことには」
 「ベシーという名前を教えてくれました」
 ミリアムはこらえきれなくなって泣きだしました。「ええ、あの子のニックネームです。いつも娘をベシーつて呼んでました。本名はエリザベスなんです」
 「奇妙だな……わたしにはよくわからないものを彼女が持っています。ちょっと待ってください。ああ、お嬢さんはぬいぐるみを持ってましたか?」
 「はい、あの子の部屋に」
 「あなたからぬいぐるみをもらったと言ってます。待って!わたしに見せてくれていますよ。なるほど、赤いポニーみたいだ。どうです、心当たりは?」
 「さあ、赤いポニーのぬいぐるみをあげた覚えはないんですけど。あの子のおもちゃのなかにあったかもしれませんが、わたしは思いだせません」
 そこで、ぬいぐるみについてもう少し詳しく教えてほしいとテレパシーでベシーに頼みました。しばらくしてわたしは口を開きました。
 「ベシーがわたしに病室を見せています。あなたが赤いポニーのぬいぐるみを持ってその病室に立っていますよ」
 ミリアムは不意にひらめいたようです。
 「まあ、そうよ、そうだわ。ジョンと一緒にぬいぐるみを買っていったんだった。あの子は病院にいるあいだ、ずっとそれを放さなかったんです。すみません、すっかり忘れていて」
 「いいですか、あなたのお嬢さんはとても聡明で、明らかにひとつの使命を持ってこの世にやってきたんです。彼女のエネルギーも生に対する熱意も実にすばらしい。まさかこんなに幼くして亡くなるなんて、きっと想像もしてなかったことでしょうね」
 ミリアムは大きくうなずくと、目をぬぐって涙を拭いた。
 「ベシーはキャンプの話をしています。彼女がキャンプに行ったことは覚えていますか?」
 「ええ、去年の夏でした」
 「レインディアというような名前では?」
 「いえ、キャンプ・レイニアでした」
 「よく似た音ですね。お嬢さんはメダルを見せています。リボンのようなものが付いている。これはなんだかわかりますか?」
 「はい」ミリアムがあえぎ声を洩らしました。「あの子はメダルを取ったんです。わたし、ちょうどそれを見たばかりでした。ボート漕ぎでもらったんですよ。ボート漕ぎのチャンピオンになったんです」
 「ええ、今朝あなたがそのメダルを箱から出したとき、ベシーも一緒に寝室にいたそうです」
 ミリアムにはとても信じられないようでした。
 「ジョンによろしく伝えてほしいそうです。それから、あなたの決断に賛成だ、と。申しわけないですが、これがどういう意味なのかわたしには見当がつきません」
 またもやミリアムの目に涙があふれました。彼女はわたしをじっと見つめました。「わたし、ジョンのプロポーズを承諾したところなんです。ただ、ベシーが納得してくれるかどうか自信がなかったんですよ」
 「いいわよ、って彼女は言ってますよ。病院で息を引き取ったときに、ジョンがかがみこんで額にキスしてくれたそうです」
 このほかにも信じがたい証がいくつか示されたあと、わたしは何か質問はないかとミリアムに尋ねました。
 「はい。わたしが向こうへ行ったとき、あの子は天国にいるんでしょうか?」
 その瞬間、あまりにも美しく、愛に満ちた感情が幼いベシーから送られてきました。彼女は母親に伝えてほしいと言ったのです。あたしはただいるだけじゃなくて、ママを迎えにいって天国まで案内してあげるわ、と。
 やがてセッションは終了しました。ミリアムは晴れやかな笑顔を浮かべていました。彼女はわたしに抱きつき、感謝の言葉もないと言いました。かわいい娘が今も無事で元気に生きているとわかって、これでやっと新しい人生を始めることができる、と彼女は実感したのです。絶望に打ちひしがれていたミリアムが歓喜にあふれる女性になったのです。

  ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.131-134






 b-42 (あなたに心からの愛を伝えている男性がここにいます)

 わたしの仕事上の喜びは、死後生存という真実を人びとに知らせるだけでなく、その過程でわたし自身が人びとの奇跡的ともいえる輝くばかりの変化に立ち会える、という点にあります。次にご紹介するのは、会席者が永遠の愛を確認した最も感動的なセッションのひとつです。
 わたしに霊から情報が伝えられてもその意味がすぐには会席者に理解できない場合がたくさんあります。トムという青年のリーディングのときもそうでした。わたしが彼のエネルギーに同調していくと、やがて、彼の右隣りにやはり若い青年が立っていることに気づきました。その青年は死の状況を細かく語りはじめたが、もちろん、わたしは事前に何も知らされてはいませんでした。
 「あなたに心からの愛を伝えている男性がここにいます。あなたの右側に立っていますよ。青い目に茶色い髪、それに、顎ひげを生やしている。彼はかなり若死にでした。本当はもっと長生きするはずだったらしい。ふうむ……この男性に心当たりがありますか?」
 「はい、たぶん」とトムが答えました。
 「麻薬でもやっているような、そんな朦朧とした感じが伝わってきます。苦痛を和らげるための薬物、モルヒネのようなものでしょう」
 「ええ、そのとおりです」
 「呼吸も苦しかったようだ。酸素吸入を受けなければならなかったんですね。とても体が弱っている感じがします。エイズの症状に似た感じです。どういうことかわかりますか?」
 トムは泣きはじめました。「はい、よくわかります。彼はエイズで死にました」
 「あなたを愛している、いつまでもそばにいるから、と言ってますよ。今でも一緒だということをなんとかあなたに伝えようとしてきたけれど、あなたには彼が見えない。それがもどかしくてたまらないそうです。あなたが昇進した話をしていますよ」
 「ええ、まあ、その可能性があると、上司から今日言われたばかりです」
 「お友達は笑ってますね。お前が昇進できるようにぼくが手を貸してやったんだ、って言ってますよ。これでひとつ貸しだからな、って」
 トムが笑い声をあげました。
 「ゲイリーという名前をご存じですか?」
 「彼の名前ですよ!」
 「何か表の庭について話しています。あなたが花を植えたがっている、と。おや、彼自身が芝生に水をまいていますね。あなたの花の選びかたがよくない、といったようなこと言っています。どういう意味か、おわかりですか?」
 「ええ。先週、苗木屋に行って、表の庭に植える花をいくつか買ってきたんですよ。家には持ち帰ったんだが、まだ植えてないんです」
 わたしは思わず尋ねました。「それはどうして?」
 「家に帰って、ほかの花と並べてみたら色が合わなかったんです。あの苗木は返してこなきゃいけないな。ゲイリーは庭に関しては好みがやかましくて、毎日、自分で水をやってました。色の合わない花を植えたりしたら絶対にゲイリーがいやがるだろうって、そう思ったんです。ほかの色と合わない花を植える気にはなれなかった。だって、ゲイリーがいやがるでしょうからね!」
 「そのとおり、って本人が言ってますよ」
 わたしとトムは声をあげて笑いました。
 「あなたはガレージで箱の中身をいろいろ調べていたそうですね。彼がアルバムを見せています。これはおわかりですか?」
 「はい。確かに今週、それをやってました。引っ越しを考えていて、持っていくものと処分するものを選り分けたかったんです」
 「あなたが家の売却についてすでに誰かと話をしているとゲイリーが言ってます。あなたは現在の住居の裏手の家をずっと見ていた、と」
 「さあ、どういうことかな」
 「そのうちわかる、とゲイリーは言っています。彼は、二個のハートが組み合わさったようなものをわたしに示しています。思い当たる品物が寝室にありませんか?」
 トムにはこのハートの意味がわかりませんでした。頭のなかで家じゅうを捜してみるのですが、わたしの描写にあてはまるものが思い浮かばないのです。わたしはあとでわかるかもしれないからとトムに言いました。
 「おまえを心から愛している、とゲイリーがあなたに伝えてほしいそうです。これからもずっとこの愛は変わらない、と。いつもあなたのそばにいるから、と言ってますよ」
 トムもゲイリーに愛してると伝え、今でもそばにいてくれるとわかって幸せだと言いました。
 「そばにいることをあなたに知らせるために、そのうちサインを送ってくれるそうですよ」
 「それはすごい。待ちきれないな」
 こうしてセッションは終了しました。このセッションのおかげですっかり心が安らいだとトムは言ってくれました。語られたさまざまな事柄を通して彼はゲイリーの存在を確かに感じたのです。彼はわたしに礼を言って帰りました。

 それから四カ月後、トムがふたたび訪れ、驚くべき出来事を話してくれました。わたしのリーディングを終えて帰宅したトムは録音テープをしまい、それきりセッションについて何も考えなかったそうです。三週間後、ゲイリーが言っていたとおり、彼の昇進が実現しました。トムはさらに説明してくれました。「同僚がカードを二枚くれたんです二枚は昇進祝いのカードでした。で、彼女が『とっても奇妙なことがあったのよ』って言うんですよ。カード・ショップを出ようとしたとき、別のカードの前で足が止まって、どうしてもこれを買わなきゃって気分になったそうです。彼女にはその理由がさっぱりわからなかったけど、とにかく、そのカードをぼくに渡さなければいけないと思った。ぼくがそのカードを開くと、そこにふたつのハートが組み合わさった絵柄があったんです。メッセージが印刷されてました。『愛してる』(アイ,ラヴ,ユー)って」
 トムはそのカードに見覚えがあったので、家に帰ると、ゲイリーから送られた手紙やカードの詰まった箱を片っ端から調べたそうです。そして、例のカードの意味がわかりました。どの手紙にもまったく同じサインがしてあったのです。∴、してる……ゲイリー≠ニ。

  ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.135-139






 b-43 (亡くなった息子と霊界でも一緒にいるガールフレンド) 

 次のリーディングでは依頼人の物の考えかたが一変しました。繰り返しになりますが、誰が現われ、何が伝えられてもわたしはいっさい関知していません。この場合、依頼人が予想もしていなかった人物が現われて、わたしには驚異としか思えない情報を伝えたのです。その夫婦ヴィヴィアンとポール・ストラウスがわたしの前にすわっていました。ふたりが懐疑的だということは一見してわかりましたので、わたしはすぐにリーディングに取りかかりました。

 「さて、あなたがたが誰との交信を望んでいるか、もちろんわたしは知りませんが、ひとつお訊きします。娘さんを亡くしていませんか?」
 ふたりは不思議そうに顔を見合わせてからわたしのほうに向き直りました。ヴィヴィアンが答えました。
 「いいえ。でも、どういうことでしょうか?」
 「若い娘さんが来ているんです。二十歳ぐらいで、あなたがたのそばに立っています。残念ながら、名前がよくわかりませんね。待ってみましょう。そのうち、教えてくれるかもしれません」
 数分が流れました。
 「ヴィヴィアン、あなたのお母さんに関係のある老婦人がここに来ています。シカゴの話をしてるんですが?」
 「はい、それは祖母ですわ。わたしの母の母にあたる人です。シカゴに住んでました。祖母はなんて言ってるんです?」
 「お祖母さんはあなたのお母さんの心配をしていますね。お母さんは目に病気があるか、あるいは、眼科の予約を取りませんでしたか?」
 ポールが落ちつかない様子で体を動かしました。この情報が気になったらしく、彼が代わって口を開きました。
 「そのとおりですよ」
 「あなたはお母さんとうまくいっていないようですね――つまり、お母さんと口をきいていない。こう言いなおしましょう。お母さんはちょっと癖のある人で、ついついあなたたちは喧嘩になってしまう。この意味がおわかりですか?」
 ふたりにはわたしの言葉が信じられなかったようです。わたしはこの家庭の状況を的確に言い表わしたのでした。
 「ええ、わたしは母とそりが合わないんです。なんとかうまくやっていきたいとは思うんですけど」とヴィヴィアンが言いました。「気楽におしゃべりできるような人じゃなくて」
 「あなたのお祖母さん、つまり、お母さんのお母さんですが、ぜひお母さんに優しくしてやってほしいと言ってますよ。もつと理解してやってほしい、と」
 ふたりはうなずいたので、わたしは先を続けました。
 「このご婦人が心からの愛を伝えています。ポールとは誰のことですか?」
 「わたしの名前ですが」とポールが言いました。
 「いえ、同じ名前で、すでに霊界にいる人物です」
 ヴィヴィアンとポールが互いに顔を見合わせました。ふたりの目にみるみる涙があふれてきました。
 「ああ、あなたがたの息子さんだそうですよ。間違いありませんか?」
 「はい、確かに」
 「ポール、息子さんが言っていることをそのまま伝えますよ。あなたはもつと自分の健康に気を配らなければいけない。息子さんがとても心配しています。あなたは彼の死をいまだに引きずっている。ずっと悲しみに浸ったまま、そこから出ようとしていない。それはあなたの健康を蝕んでいきます。外に出て、何かほかのことをしなければ。植物はお好きですか?」
 「はい」
 「表の庭に花を植えてほしいと息子さんが言ってますよ」
 「ついこのあいだ、そうしようかと思ったところです」
 「息子さんがあなたの頭にその考えを吹き込んだんです」
 ふたりは呆然とした表情でわたしを見つめました。情報の正確さに感動し、わたしの言葉のひとことひとことに聞き入っているのです。
 「これは大変奇妙なことに聞こえるかもしれませんが、息子さんがぜひ伝えてほしいと言っています。彼には向こうでガールフレンドがいるそうですよ」
 ヴィヴィアンが顔に両手を当てて泣きだしました。
 彼女がつぶやくようにこう言ったのです。「ええ、そうなんです。彼女は元気ですか?」
 わたしにはどういうことか理解できなかったので、このメッセージの意味を明らかにしてほしいとふたりに頼みました。
 「つまり、現世でガールフレンドだった女性も亡くなってるんですか?」
 「ええ、息子が死んで数カ月後に。わたしたちにとっては娘も同然なんです」とヴィヴィアンが説明してくれました。
 「なんてことだ。とても信じられない」とわたしは答えました。「今はふたり一緒にいるんだと彼女が言ってます。ああ、そうだったのか、セッションの最初に現われてくれた娘さんですよ」
 夫婦はうなずいて同意しました。リーディングはさらにしばらく続きました。わたしは彼らの息子の特徴や死の状況を伝えました。
 「なるほど、息子さんはちょっと奔放なタイプなんですね。なかなか身を落ちつけられなかった。今はこの娘さんと一緒だが、でも、彼は相当のプレイボーイだったようだ」
 「はい、そのとおりです。女友達が大勢いました。少なくとも、本人がそう言ってました」
 「彼は音楽が好きだったらしい。ガレージにあるギターについてはご存じですか?」
 ポールが答えました。「はい、ちょうど見てきたばかりです。ポールはバンドで演奏したがってました。いつも練習してたんですよ」
 「家に帰ったら見てほしいとポールが言ってます。二番めの弦が切れてるそうですよ」
 ポールにはわかりませんでしたが、あとで確かめてみると言いました。
 「車のことも何か言ってますね。お宅にピックアップ・トラックはありますか?」
 「はい」
 「彼は新しいタイヤについて言ってます。新しいタイヤを買うとか、新しいタイヤが必要だというようなことは?」
 わたしは目の前の男性が心臓発作で倒れるのではないかと思いました。顔が蒼白になったのです。
 「先週の金曜日にタイヤを替えたばかりです」
 「ヘッドライトも点検したほうがいいと言ってます。交換しないといけないらしい」
 「驚いたな、わたしも昨日の夜、それに気がついたんですよ」
 夫婦はただ唖然とするばかりでした。
 「息子さんはかなり急死だったようですね。頭がとても妙な感じです。ドラッグで朦朧としたような感じだが、でも、死因は麻薬の中毒ではない。むしろ、体の内側に関係している。彼は長く苦しまなくてすんだとしきりに言ってます。それがうれしかった、と。何か、血液に異常があったんでしょうか?」
 「そうなんです!」
 「エイズだったんですか?」
 ふたりはまたもや泣きはじめました。
 「はい」
 「不思議だ。エイズにかかった人はたいてい長期間の闘病のすえに亡くなってるものです。でも、息子さんにはそんな様子がない。つまり、病気になってすぐ亡くなったような感じがします」
 「はい。エイズとわかって、一週間後に病院で亡くなりました。あっというまの死でした」と父親が答えました。
 「この若い娘さんもやはりエイズで?」
 「はい」今度は母親が答えました。
 「彼女があなたがたによろしく伝えてほしいと言ってます。それから、キャリーにも。誰のことかわかりますか? その人に愛と感謝を伝えたいそうです」
 「キャリーは彼女のお母さんです」
 「あなたがたを悲しませて申しわけないと息子さんが言っています。今は元気でやっている。いずれ音楽の演奏家になるそうです」

 ヴィヴィアンとポールは互いに手を取り合いました。ふたりの願い――新たな世界を見ること――それがかなえられたのです。息子を取り戻せないことはふたりにもわかっています。しかし、わたしを通して、息子があちら側の世界で生きているという確かな証拠を得たのです。彼らは癒やしのプロセスを順調に進みはじめました。その後、ヴィヴィアンと母親の関係はかなり改善されました。ポールは美しい花壇を作り、また、じっくり瞑想しながら、新しい観点から人生を考えはじめています。

  ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.140-146






 b-44 (霊界のボーイフレンドからの愛のことば) 

 わたしはカリフォルニア州サンバーナーディーノにある女性の自宅でグループの交霊会に参加していました。三人の出席者のリーディングを終えたあと、ソファにひとりですわっていた若い女性に声をかけました。彼女の名前はローリーでした。そして、三十分ほどかけて彼女の祖母からのメッセージを伝えました。家族の持ち物の描写や、祖母の品物が家のどこにあるか、といった内容でした。
 そろそろリーディングを終えようとしたとき、若い男の霊が現われ、ローリーのすぐ隣りにすわったのです。彼は彼女の手を握っているようでした。そして、わたしに情報を伝えはじめました。

 「あなたのすぐ横に男の人が腰かけています。彼と会うために今夜あなたはここに来たのだと言ってますよ。心当たりがありますか〜」
 ローリーは今にも失神しそうに見えました。顔が真っ青になり、必死に涙をこらえています。
 彼女の唇がやっと開きました。「はい、彼はここに来ているんですか?」
 「この男の人はあなたを愛していると言ってます。それから、すまなかった、と。自分の行動を悔やんでいます」
 ローリーは涙をぬぐい、うれしそうな笑みを見せました。
 「名前のイニシャルはMだそうです。最初がM、そして、最後がY」
 「ええ、そうです。彼の名前はマーティーです」
 「あなたのボーイフレンドだったんですか?」
 「はい」
 「何か問題があったようですね。あなたに対して正直ではなかったと彼が言ってます」
 「わかってます。もういいんです。本当にかまわないからと彼に伝えてください」
 そこで、わたしは、自分自身で気持ちを伝える方法があるし、いちいちわたしを通さなくても交信はできるのだとローリーに説明しました。
 「どうやらマーティーはタフガイのようですね。ユーモアのセンスも優れている。でも、少しひねくれたところがあるようだ。この意味がわかりますか? とっぴなことを言うもんだから、人から誤解されやすいんですね」
 ローリーがそのとおりだと言いたげににっこりと笑いました。彼はしばしば自分のおしゃべりで人を唖然とさせていたというのです。
 「あなたと一緒に暮らすつもりだったのに、それができなかったと彼が話しています。何か障害があったようですね。あまりに大勢の人間がじゃまをしようとした、と彼は言ってます。どうです、わかりますか?」
 「ええ、わたしの母がマーティーを嫌っていて、わたしたちの同棲に反対でした。わたしたちが引越しの話をしていると、いつもやかましく騒いだものです」
 「マーティーは理解してくれてますよ。彼にはいかがわしい過去があったが、あなたに助けてもらって立ちなおったそうです。不良仲間とのつきあいがあったようですね」
 ローリーがうなずきました。
 「彼は麻薬に深く依存していたらしい。それが原因で感染したんですね――注射針を共用したためだ。そのことについてはご存じですか?」
 「知りません。彼は何も話してくれませんでした。でも、たぶん、そうだと思います。わたしと出会う前の彼は本当にひどかったんです」
 「あなたに会えたことが自分の人生で最高の出来事だったと彼は言ってますよ。ちょっと皮肉ですね。彼は婚約の話をしている。あなたがたは結婚する予定だったんですか?」
 ローリーの目にまた涙があふれてきました。
 「その話はしてました。彼が結婚したいと言ったんです。日取りの相談もしていました」
 「婚約指輪について彼が口にしています。あなたのために自分で選んだ、と」
 ローリーがわっと泣きくずれました。数分後、彼女は首のチェーンに通したダイヤの婚約指輪をわたしたちに見せてくれました。
 彼女は涙で顔を濡らしながら説明しました。「彼のお母さんがこの指輪を見つけたんです。
 わたしの名前が書かれた手紙と一緒に。これをわたしに渡すつもりでいたその日に彼は亡くなりました」
 部屋にいた全員がいっせいに息を呑みました。わたしは数分おいてから、さらに情報を伝えました。
 「いろいろ世話をしてくれてありがとう、とマーティーが言ってますよ。食事や入浴の世話をなさったんですか?」
 「ええ、看護しました。ほかの人は彼に関わるのをいやがってましたから。わたしは気にしませんでした。あの人を愛してましたから」
 「あなたは本当に優しい方だ。あなたは霊に試されていたんですよ。その試験に合格したんです」

 リーディングが終わるまで、マーティーは、ローリーのおかげで立ちなおれたこと、病気のあいだ面倒を見てもらったことに感謝を示しつづけました。彼は今でも彼女を愛していると懸命に訴えていたのです。ローリーは亡くなった恋人の霊との対話を信じてはいましたが、その態度はまだ控えめでした。やがて、わたしのエネルギーが衰えてきて、今夜の交霊会はそろそろ終わりにしなさいとわたしのガイドたちから指示されました。
 わたしは会席者たちに礼を言うと、ローリーに向かって伝えました。「マーティーが、さよなら、ベイビー、と言ってますよ」
 いきなりローリーが立ちあがって金切り声をあげました。わたしがだいじょうぶかと尋ねると、彼女は大声で叫んだのです。「昨日の夜、わたしはマーティーのことを考えながら、彼にこう言ったんです。『もしこの霊媒という人が本物なら、そのときは絶対に来てちょうだい。そして、わたしのニックネームを呼んで』って。わたしのニックネームはベイビーなんです!」
 これを聞いてわたしたちは一様に声を呑み、霊と愛の力に驚喫したのでした。

  ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.147-151






 b-45 (教会で開かれた公開デモンストレーション)

 わたしはハリウッド統一メソジスト教会で月例のデモンストレーションを行なおうとしていました。いつもはわが家の居間でデモンストレーションをするのですが、その夜集まった大勢の参加者を収容するにはあまりにも狭かったのです。居間に入れるのは三十人、教会には二百人が入れました。
 その晩、空はやけに不気味でした。今にも土砂降りの雨が降ってきて街じゅうが水浸しになるだろうと思ったものです。わたしは祭壇に立って群衆のほうに顔を向けました。一瞬、とても奇妙な気分になりました。わたしは群衆を見つめ、それから周囲に目をやりました。教会で交霊会を開くことじたい、われながら信じられない思いでした。わたしは心ひそかに苦笑しがらこう思ったものです。どうだい、昔の司祭さんに今のわたしを見てもらいたいもんだ! わたしは瞑想を始めました。祈りの言葉を唱えるころ、屋根をたたく雨音が聞こえてきました。ただの夕立なんてものではありません。まさに豪雨です!すさまじい雷鳴がとどろき、続いて閃光が走りました。稲光が窓のステンドグラスを明るく照らしだします。なかなかの見ものでした――スピルバーグでもこうはいかないでしょう!
 わたしは会衆席に集まった人びとに向かって言いました。「さてと、今まで怯えていらっしゃらなかったとしても、これですっかり怖くなったでしょう!」
 グループの交霊会やデモンストレーションでは最初に誰が現われてくるか、わたしにはわかりません。このときも霊の想念に耳を澄ますことから始めました。
 「ここに女性が来ています。スーザンという名前を繰り返しています」
 すぐさま左側の二列めの会衆席から女性の悲鳴があがりました。わたしはその女性に目を向けました。「心当たりがおありなんですか?」
 「さあ、はっきりとは。でも、その名前の人を知ってるんです」
 「彼女がこう言っています、あなたはわたしの母を知っている、と」
 「昨日、彼女のお母さんと話をしたばかりです。おしゃべりしました」
 女性はまるで自制心を失ったようにまたもやかんだかい叫び声をあげました。
 群衆がいっせいに彼女のほうを振り向きました。彼女がひどく苦しんでいるのは明らかでした。わたしはしばらく待ちました。
 「この女の人はあなたとの交信を望んでいます。不思議ですね。彼女はあなたの家族ではなさそうだ。でも、あなたにとってとても身近な人で、あなたを愛していると言っています」
 女性がうなずきました。わたしは先を続けました。
 「彼女はキャシーという名前を伝えてきています。その意味がわかりますか?」
 女性は目の涙を拭くと、うつむいたまま小声でつぶやきました。「それは彼女の名前です」
 「あなたが新しい仕事に就いたばかりだと彼女が言ってます。彼女がその手伝いをしたそうですよ。それから、二匹の仔猫を示していますね。一匹は灰色の縞柄、もう一匹は白地に黒い斑点がる。あなたの子供という言い方を彼女はしています」
 「はい、そうです。私の猫です。彼女は私の家にいる猫たちを見てるんでしょうか?」
 「ええ、そのとおりだと言ってます。猫たちはキッチンのベルにじゃれついて遊んでいるそうです。ドアノブにぶらさげであるようですね」
 女性は黙ってうなずきました。
 「彼女が家を見せています。この家はどうもさっきとは違うようだ。ふうむ……木造家ですね。薄い色の木材を使っているようだ。どうやら山小屋らしい。外のポーチに沿ってぐるりと木の手すりが取り巻いています。この家に心当たりは?」
 「はい、わたしたちの家です」
 「改築か、あるいは、建て増しの計画があったと彼女が言ってます。変だな、建築業者のことを役立たずだと繰り返してますね」
 女性が声をあげました。「そうなんです、ポーチのそばの外壁を改装したかったんですけど、いい業者が見つからなくて。おかげでわたしたちにとっては大迷惑でした」
 「彼女が一枚の写真を見せています。ハート形の額に入ってます。なんだかわかりますか?」
 「はい、わたしが持ってるキャシーの写真です。その一枚きりしかないんです。ごめんなさいって、彼女に伝えてもらえませんか?」
 「あなたの気持ちは彼女にちゃんとわかっています。でも、あなたのせいではないそうですよ。どういうことかわかりますか?」
 「いいえ、わたしのせいなんです。わたしのせいでキャシーは死んだんです」
 わたしは耳を澄ましました。そのとき不意に、口のなかに銃を感じたのです。
 「口のなかに銃を感じます。銃身がとても冷たい。すみません、でも、彼女は口に銃をくわえて自殺したような感じがします。そうなんですか?」
 女性はあえぎ声を洩らし、「はい」と答えました。
 「彼女が死ぬ前に大声で叫んだり怒鳴ったりしていたような気がします。何か大きな喧嘩があったんでしょうか?」
 「はい」
 「彼女はひどく取り乱して、寝室に二時間ほど閉じこもっていたと言っています」
 「はい。わたしたち、喧嘩したんです。そのとおりです。本当に悪かったって、お願いですから彼女にそう伝えてください。心から愛しているって」
 「ええ、彼女にはわかってますよ。自殺したのは自分の決断だったとあなたのお友達は言ってます。あのときは、あなたに罪の意識を持たせたかったけど、今はそれが間違いだったとわかっている。あなたを苦しめて申しわけなかったと彼女は許しを求めていますよ。あなたとの関係を終わりにする勇気がなかった、ほかの人の存在を考えただけでどうにも我慢できないくらいつらかった、と。この意味がおわかりですか?」
 「はい。よくわかります。でも、わたしは自分を一生許せないでしょう」
 「いいえ、許すべきですよ。あなたが引き金を引いたわけではない。あなたが説得しようとしたのに、彼女は耳を貸そうとはしなかった。神さまのようにふるまうことなんてできませんからね。いいですか、あなたのお友達は、自分が特別な存在だと気づくだけの豊かな愛を自分自身のなかに見つけられなかった。彼女はあなたの責任ではないと言いたくてここに戻ってきたんです」
 女性はわたしの言葉をじっと聞いているようでした。セッションはさらに数分続き、そのあと、別の聴衆に届けられたメッセージに移りました。

 休憩中に先ほどの女性がやってきてわたしに抱きつきました。「わたし、こういうことって全然信じてなかったんですけど、でも、あれは間違いなくキャシーでした」と彼女は言ったのです。キャシーのメッセージは彼女にとって大きな救いとなりました。「キャシーだという証拠があまりにも多くて疑う余地なんて全然ないんですもの」彼女はこれからは自分を許そうと努力してみると言いました。そして、キャシーのために祈り、助けを求めていくつもりだ、と。
 あとになってわかったことですが、この女性は別の女性と関係を持っていました。そこで、そろそろ関係を清算したいとキャシーに持ちかけたところ、ふたりは口論となったのです。キャシーは寝室に行って銃を取りだし、銃弾をこめました。そして、浴室に入って施錠し、銃をくわえて引き金を引いたのです。
 最後にひとつ付け加えておきましょう。キャシーがこの友人に語った話によると、自分の死の記憶に今でも悩まされているけれど、霊界の人びとから助けてもらっている、ということでした。

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.161-166






 b-46 (霊界から息子が自殺した時の状況を伝えられる)

 玄関を開けると、やわらかい肌に美しい微笑を刻んだ中肉中背の女性がそこに立っていました。五十代の後半といったところでしょうか、穏やかな自信に満ちた雰囲気が全身からあふれていました。言葉づかいが上品で、彼女自身についても生活一般についても堅実な印象を受けました。
 交霊会は初めてで、霊媒というものをそれほど信じているわけではないが、過去の問題解消には役立つかもしれないとセラピストから勧められた、と彼女はまず率直に語りました。この現在を生きていくために「なんでもやってみる」つもりだと言ったのです。「それに、可能な方法はすべて試してみたいのです」と彼女は言いました。こういった話を聞くうちにわたしはたちまちこの女性に親近感を覚えました。非常にチャーミングな性格で、しかも、さわやかなすばらしいユーモア感覚の持ち主でした。『アンディ・グリフィス・ショー』に登場する“ピーおばさん”を連想しました。もちろん、彼女自身や彼女が交信を望んでいる相手についてわたしには知識も情報もいっさいありませんでした。「こんなところでくつろいでいただけますか?」と訊くと、「申し分ありませんわ」と彼女は答えました。そこでわたしはリーディングを始めました。

 「あなたの後ろに男の人が立っています。誕生日おめでとう、と言ってますよ」
 「あら、それはどうもありがとう。わたくしの誕生日は一昨日でした」
 「この男性はあなたの大変身近な人ですね。アフリカに行く、もしくは、アフリカにいる、といった話をしています。どういうことかおわかりですか?」
 「ええ、わかりますとも。わたくしども夫婦は長らく向こうで暮らしておりますの。そろそろこちらへ戻りたいと思っています。なんだか、こういうのって、おもしろいですわね?」
 「息子さんとお嬢さんがおありですか?」
 「いいえ、男の子がふたりです」
 「あなたの後ろにいる男性は息子について何か言っていますね。彼があなたの息子なのか、それとも、あなたの息子について話しているのか、どうもはっきりしません」
 「わたくしにもわかりませんわ」
 「ちょっと待ってください。ああ、なるほど。あなたの下の息子さんが亡くなってますね。そうですか?」
 「はい、そうです」
 「その息子さんがここに来ています。あなたの後ろにいる人ですよ。彼はひどく戸惑ってますね。わたしたちがこういうことをやってるなんて信じられないそうだ。いや、あなたがやってるのが信じられないということですね」
 「それはよくわかりますわ」
 「古い部族の工芸品の収集についてはおわかりですか?」
 「ええ、わたくしの夫がアンティークを扱ってますので。家にはそういうものがあふれてます。でも、すごいわ、嘘みたい」
 「アンドルー、あるいは、アンディという名前に心当たりは?」
 「息子の名前です。アンディと呼んでました。父親の名前を採って名づけたんですよ」
 「彼が素敵なお屋敷を見せてくれています。壁には美しい油絵がたくさん掛かっている。世界じゅうから集められたもののようですね。まるで美術館みたいだ」
 「そのとおりです。ほんと、あなたって、すばらしいわ! わたくし、美術品を集めてますの。ほとんどは油彩画で、かなり大きなコレクションですのよ。それにしても、驚きだわ」
 わたしがどうやってこうした情報を知り得たのか、それをこの女性が考えているのは明らかでした。
 「また何か異国ふうの品物を見せてくれています。毛布か膝掛けのようなものですね。やはり家のなかのあちこちにある。ああ、壁に掛けてあるところを彼が見せていますよ」
 女性がうなずきました。
 「裏に住むというのはどういうことでしょう? アンディは裏に住んでると言ってるんですが」
 「裏にゲストハウスがあるんです。アンディはそこをアトリエとして使ってました。ほとんどそっちで暮らしてたんですわ」
 わたしは納得しました。「だから、彼はこんなにきれいな色彩を見せてくれてるんですね。そう、確かにこれは画家のパレットだ」
 この交霊会はそれから三十分は続き、死後生存の驚くべき証拠が示されました。アンディは自分がどこにいるのか、そして、何を体験しているのか、それを事細かに語ったのです。
 「彼がこう言っています。最初にあちらへ行ったとき、病院のようなところにいたそうです。みんなに助けてもらったおかげで精神状態が回復した。今は芸術家村に住んでいて、そこでは人びとがそれぞれ独自の芸術表現を行なっている。彼はお互いに理解し合える人びとと出会っているそうです。最近はいろんなことをたくさん学んでいるそうですよ」
 さらにアンディは母親との関係、そして、自分の死について語りました。
 「息子さんは非常に神経過敏で傷つきやすい人だったようですね。彼はとても不幸だった感じがします。いや、不幸というのではなくて、むしろ、憂鬱だった。感情の抑えが効かないような感じです。彼は何か薬物を服用していましたか?」
 「はい。躁鬱病の薬を医者から処方してもらっていました。それに、非合法のドラッグも使ってました」
 「なるほど。ええ、確かに彼は麻薬中毒でしたね。しかし、彼には化学的アンバランスがあった、そのせいで死に至ったのだと、アンディ本人が確信していますよ。お母さんを憎んでいると彼は何度もあなたに言ったそうですね」
 「ええ、そうでした」
 「もちろん、彼が本気じゃないことくらい、あなたにはわかっていた。息子さんは病気だったんです」
 「ええ、もちろん、わかってますとも」
 「ドラッグと自分自身の欲求不満のせいで口走っていただけなんだ、それをわかってほしい、と彼は言っています。死んで初めて、あなたの立場になって物を見ることができた。あなたは何年も息子さんを助けようと努力し、決してあきらめなかったそうですね。彼が何か悪いことをしてもお母さんは大声ひとつあげなかった、とアンディが言ってますよ」
 女性は居心地が悪そうに身動きすると、やっと口を開きました。「どういうことかよくわかりませんわ。でも、そうです、わたくしは息子を愛してました。あの子には確かに問題がありました。でも、母親にできることがほかにあるでしょうか? どんなことがあろうと息子を愛し、援助してやるしかなかったんです」
 「たとえ、どんなにつらいときでも。息子さんの言葉から察するに、彼はあなたにひどい仕打ちをした。でも、あなたはそれを耐え忍んだんですね」
 「わたくしは理解していましたから。少なくとも、理解しようと最善を尽くしました。アンディが無事に生きていけるようにできるかざりのことをしたんです。あの子に幸せになってもらいたかった。でも、あの子はいつもひとりぼっちでした。わたくしはアンディを愛してましたし、この愛情はこれからも永遠に変わりませんわ。主人とふたりで精いっぱい努力しました。ただ、主人は辛抱できなくなったようでしたけどね。でも、どういうわけか、わたくしにはアンディが理解できたんです。まるで、あの子の魂をじっと見通せるような、そんなときがたまにありましたわ。あの子はとてもつらい思いをしていた。どんなに苦しんでいるか、わたくしにはそれが痛いほど伝わってきたんです」
 「あなたをさんざん悩ませて申しわけなかったと、彼は後悔していますよ」
 「そんな必要はありません。わたくしはあの子を愛してるんですから」
 やがて、リーディングの流れが変わり、アンディが自分の死について語りはじめたところで感情を大きく揺さぶるような緊迫感に包まれました。
 「息子さんは屋敷の裏手でひどく取り乱しています。何もかも一気にけりをつけてしまいたいと思っている。もうこれ以上はとてもやっていけない。彼は周囲にある自分の絵をしきりに見ています。自分が死んだらこの絵はみんなどうなるんだろう? しかし、そんなことはもうどうでもいいと思えてきた。気分が落ちこんで憂鬱でたまらない。自分自身に対して憎悪がわいてくる。情緒が不安定だ。息子さんが亡くなったとき、あなたはお留守だったんですか?」
 「ええ、そうなんです。ちょうどその日の午後、旅行から戻ってきました。主人が息子を発見したんです」
 「息子さんが屋敷の裏の野原を示しています。野原か、広い裏庭のようですね」
 「そうですわ。本当に嘘みたいですね。もうなんと申しあげていいかわかりませんけれど、でも、確かにおっしゃるとおりです」
 わたしはリーディングを中断して彼女にだいじょうぶかと尋ねました。このまま続けてかまわないか確認したのです。彼女はいいから続けてほしいと答えました。
 「息子さんが大きな木を示しています。オークのようです。とても大きくて葉が生い茂っている。彼がその木にのぼっています」
 急にわたしの喉が締めつけられるように苦しくなってきました。まともに息ができません。即座に死因がわかりました。アンドルーが自分の経験をそのまま伝えてきたからです。ここでわたしはいったんリーディングをやめ、わたしが体感しなくてすむように死の模様を映像的に示してほしいとアンドルーに頼みました。そして、アンドルーの霊が自分の死の状況をコントロールできないようなので、この交信を監視していてほしいとわたしのガイドたちにも依頼したのです。数分後、わたしはリーディングを再開しました。アンドルーが死の場面を映像として伝えてきました。
 「あなたの息子さんは裏庭のオークの木で首を吊りました。枝にはしごをかけてのぼった。そうなんですね?」
 アンドルーの母親が涙を流しはじめました。バッグからティッシュを取りだして目をぬぐいながら、そのとおり間違いはないと認めました。
 わたしは先を続けました。「とてもいやな気分です。こんなことは実に珍しい。こんなふうに感じたり見たりすることはめったにありませんから。あなたの息子さんは頭から体の外へ出ていったんです」
 アンディは肉体の上に浮かんでいる自分の姿を示しました。
 「彼はまだぴんぴんしている気分なので自分の死が信じられない。とんでもない失敗をやらかしたと思って、必死に頭から肉体のなかへ戻ろうとしている。でも、うまくいかない。彼はひどくあせっている。大声で泣きだした!」
 わたしはこの体験に庄倒されていました。この驚くべき映像を見ているそのままに母親に伝えました。しばらくしてわたしはふたたび先を続けました。
 「アンディはどうしていいかわからなくて、その場で待っていたそうです。父親が彼の遺体を発見して動転しているところも彼は見ていました。自分の行為が間違っていたことにアンディはすぐに気づいたそうです。あなたやお父さんに申しわけないと思った。あなたがご主人から話を開いて泣きくずれるところも彼は見ていました。あなたは、いつかこんな日が来るのではないかとかねがね思っていた。その思いを彼は聞き取り、あなたの心にあふれる愛も感じ取った。あなたをつらい目にあわせて、彼は心から悔やんだのです」
 「わたしにはちゃんとわかっているのだから、とあの子に伝えてやってください」
 「ありがとう、ママ、と彼が言っています。ぼくを許してほしい。ママを心から愛している。それに、もちろん、パパのことも。こっちではいろいろ助けてもらってるんだよ、ママ。ぼくが本来の自分を取り戻せるように面倒を見てくれるいい人たちがいるんだ。ぼくにとっては人生がつらすぎたんだよ、ママ」
 霊には自由意思があり、適当ではない時機に転生してしまう可能性があることを、わたしはアンドルーの母親に説明しました。「こういう現象が起きると、たいていは、“合わない”という強烈な違和感を持ったまま人生を過ごしてしまうんです」魂が現世を体験するには時期的にふさわしくなかったために、アンドルーは人生に適応できなかったのだとわたしは話しました。彼の魂は人生に直面できるほど成熟してはいなかったのです。「どうにも対応できないくらい庄倒されることがよくあるんですよ。そのために魂は逃げ道を求めてしまう。だから人は自殺をするんです」

 その女性はわたしの説明を完全に理解してくれました。確かにアンディは適応できていなかったと彼女は打ち明けました。「まだ小さな子供のころからあの子は弟やほかの同じ年頃の子供たちとひどく違っていたんです」 このリーディングによって、地上に早く戻りすぎた場合の概念が確認されたといってもいいでしょう。
 母親は息子と交信できて非常に喜んでいました。彼女は、いつか奇跡が起きるようにと祈っていたけれどついにその日が来た、と言ってくれたのです。これからもずっとあなたのことを思って生きていくから、わたくしを通してほんの少しでも現世を体験してちょうだいね、と彼女はアンディに語りかけました。
 わたしはこの女性に別れを告げましたが、その日は、思慮深い老成した魂との出会いに満足感を覚えていました。あらゆる人びと、あらゆる体験に愛を見出すという意味が彼女にはわかっていたのです。

  ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.167-176






 b-47 (自殺した父と母からのメッセージを霊界から受け取る)

 次のリーディングでも、霊の人生観の背後にある動機、そして、本人が現世で存命中に特異なふるまいをしていた理由、それらを深く洞察することができました。この情報は会席者にとってふたつの理由から貴重でした。自殺に対する心のわだかまりを解いただけでなく、彼女と両親の関係についての疑問に答えが出たのです。それは彼女が理解しようと長らく苦闘してきた親子関係でした。このリーディングによって癒やしが実現し、彼女の人生はこれまでとはまったく違ったものになったのです。ドアを開けて迎え入れたのは、ナンシーという名前の非常に魅力的な女性でした。

 「ナンシー、わたしを助けてくれているエジプト人のガイドがこう言っています。あなたの両親が来ているそうです。あなたが話したいと願っていたまさにその人たちがここにいるんですよ」
 ナンシーは大きな青い目を見開いてわたしを見つめました。唖然としたように口が開いて、言葉も出ない様子です。
 「あなたの後ろにご婦人が立っています。緑色がかったドレスを着ていて、とてもきれいな人ですね。髪は明るい茶色だな。彼女の微笑はこぢんまりして控えめだが、でも、愛らしい。そんな感じです。目は美しいブルーだ。もうわたしはだいじょうぶだ、と彼女が言っています」
 ナンシーはあいかわらずわたしを見つめるばかりでした。
 「この女性は母親のような気がします。ジョーンという名前に心当たりはありませんか?」
 「はい、わたしの母の名前です。もう亡くなりました。今おっしゃった女性の外見はうちの母にぴったりですわ」
 「今の彼女はあなたの記憶にあるよりもずっと若いようですね。ああ、あなたがお母さんの結婚式の写真を持っているそうですよ。霊界ではそっちの姿だそうです」
 「ええ、その写真なら昨日の夜、見たばかりです」
 ナンシーはあふれる涙を拭きました。信じられない、本当に嘘みたいだ、と彼女は繰り返しました。わたしは先を続けました。
 「お母さんがあなたに伝えてくれと言ってます。マーガレットとキャサリンに会ったそうです」
 「マーガレットは母の母で、キャサリンは母の姉です」
 「彼女はジョンという名前も口にしていますね。その名前をご存じですか?」
 「まあ、驚いた、ジョンはわたしの夫です。主人の名前なんですよ。母は彼を見てるのかしら?」
 「ええ、見てますとも。主人によろしく伝えてほしいと言ってます。あなたをくれぐれも大事にしてくれ、って」
 ナンシーは呆然としていました。信じられない面持ちで彼女は首を振りました。
 「ナンシー、どうやらあなたのお母さんは、亡くなる前にずいぶん具合が悪かったようですね。たくさんの薬があったようだ。これは意味が通じますか?」
 「はい、そのとおりです」
 「あなたのお父さんがお母さんを見つけたというのはおわかりでしょうか?寝室の床だったらしいのですが」
 「はい。父が発見しました」
 「あなたのお母さんはひどく後悔しています。あなたの許しを求めています。あなたをあんなに狼狽させるつもりなんてなかった、と言っている。わたしには、お母さんが精神的に不安定だったと感じられてなりません。お母さんはよく鬱状態になったんですか?」
 「ええ。そうです。どういうことだったのかわたしにはわかりませんが、母はいつも具合が悪かったんです。わたしが子供のころからずっとそうでした」
 「あなたに対していい母親ではなかったとお母さんが謝っています。お母さんは精神病院を出たり入ったりしていたんですか?」
 「はい、ほとんどそういう生活でした。躁鬱病を思っていたんです」
 わたしはすばやく答えました。「ああ、やっぱり。彼女はアンバランスなんですね。自分で人生を動かすのではなく、人生の流れに左右されてしまう人だった。お母さんはあなたに向かって懸命にこう伝えようとしています。あなたを心から愛している、生きているあいだにそれを言えなかったことが悔やまれてならない、と。あなたのお母さんには愛が理解できず、それをどう伝えていいのかもわかっていなかったんだと思いますね」
 「たぶん、そうだと思います。ほんとにすごいわ」
 「ナンシー、お母さんの精神状態が死の原因だったようですね。自殺だったんですか?」
 ナンシーが泣きだしました。
 「はい。わたしは母を少しでも助けたかったんです。でも、母はわたしをそばに近づけようとしなかった。鬱状態があまりにもひどかったんだと思います。わたしなりに努力したけど、でも、母をどう扱っていいのかわからなかった。母の自殺を防ぐ手だてが何かあったんでしょうか?」
 「いいえ、あなたのお母さん自身が彼女にとつての最大の敵だったんですよ。あなたには止めようがなかった。何を言ってもお母さんは耳を貸さなかったでしょう。そもそもおとなしく人の話を聞くような女性ではなかった」
 ナンシーは微笑を浮かべながらうなずきました。
 「お母さんはあなたの母親になれなくて申しわけなかったと言っています。あなたを傷つけるつもりはなかった。彼女は動物が大好きだそうですよ」
 「まあ、ええ、そうなんです。母は動物が好きでしたわ」
 「スキッピー、いや、スキッパーかな、一緒にいるそうですよ。これはなんですか?」
 ナンシーの目がますます大きくふくらみ、口があんぐりと開きました。
 「わたしが子供のころにうちで飼っていた犬です。母がかわいがってました。ほんと、とっても仲がよかったわ。スキッパーは毎晩、母のすぐ隣りで寝てました。あの、訊いてもいいでしょうか? 母は幸せなんですか? つまり、今はだいじょうぶでも、これからどうなるんです? 母はどこへ行くんでしょう?」
 わたしはこの質問を母親ジョーンに心で伝え、数分ばかり待ちました。このように質問した場合、霊がその意味を把握してわたしに返答を返すまで一定の時間を要するときもあるのです。
 数分後わたしは言いました。「お母さんは別の婦人から援助を受けているそうですよ。一種のカウンセラーですね。お母さんは自分で命を絶ってしまったが、その自覚があったわけではない。精神的に混乱していた。あちらへ移ってからは、精神状態を改善しょうと努め、心に愛を取り戻す方法を学んできたそうです。自身の愛を確認できるようにね。今は素敵なところにいます。この地上によく似ているが、もっと美しいところですよ。彼女は、たとえ死んでも永眠しているわけではない、と言っています。それどころじゃない。失った時間を埋め合わせるたみに彼女なりに努力しているんですね」
 そこからこのセッションはまったく新たな様相を呈してきました。わたしは母親からのメッセージをさらにナンシーに伝えました。
 「お母さんは元気だそうですよ。家族と一緒だが、まだ自分ひとりでやらなければならないことがある。それは誰かに代わってもらえることではない、自分でやるしかないんだ。お母さんはあなたのお父さんに対してひどく申しわけないと感じていた。責任を深く感じていた、と話しています。これはどういう意味なのかよくわかりませんね」
 「わたしにはわかります」ここでナンシーがまたもや泣きだしました。
 「では、先を続けましょう。あなたのお父さんか、なるほど。お父さんは優しいタイプですか? というのは、お母さんがお父さんの話をすると、すぐに男性のバイブレーションが伝わってくるんです。彼はわたしの横に立っています。お父さんも亡くなってるんですか?」
 「はい。母が死んでしばらくしてから。父は元気なんでしょうか? どうか教えてください。わたしの声は父に聞こえてるんですか?」
 「ええ、お父さんは元気ですよ。お母さんと一緒にいます。お母さんのそばにいることだけが自分の望みだったと言っています。今も一緒にいる、と。来てみるとこっちはまるで違っていた、とお父さんが話しています。天国とは天使や竪琴であふれた場所だと想像していたけれど、そんなものはまだ一度も見ていない。彼は田舎にいるそうです。自分がひどく愚かだったという話をしていますね」
 「ええ、聞かせてください」
 「いや、これは妙だな。お父さんは馬がお好きだったんですか?」
 「ええ、まあ、農場で育ってますから。農場に馬はいたでしょうけど、はっきりとは知りません。わたしには……」
 そこでわたしがさえぎりました。彼女の父親が別の話をしだしたからです。
 「いえ、お父さんは競走馬のことを話してます。競走馬が好きだったんですね。競馬でギャンブルをやっていたんだ」
 「ああ、そうですわ。毎週土曜日になると父は競馬場にでかけていました。でも、信じられない。父は今でも競馬をやってるんですか?」
 「そのつもりになればできる、と言ってます。似たようなものが向こうにもあるけど、お金は賭けない。そもそもスポーツマンシップのためにやるものだから。ナンシー、お父さんはあなたを見棄ててしまったと言っています。本当にすまなかった。でも、孤独でたまらなかったんだ。わたしはおまえを見棄ててしまった」
 「いいのよ、パパ。さぞかしつらかったんでしょうね」とナンシーが言いました。
 「ナンシー、これはいったいどういう意味でしょう? お父さんがわたしに銃を見せています。四五口径のようだが、申しわけない、わたしは銃に関しては門外漢でね。これは拳銃だが、小型ではない。わたしに見せていますよ。それから、部屋も。書斎か何かのようだな。テラスがあって、まわりには書棚が並んでいる。カモのデコイも見えます」
 「父はデコイを集めてました」
 「お父さんが血だまりを示しています。椅子の背にのけぞるようにもたれている。なんと、お父さんは拳銃で自殺なさったんですか?」
 ナンシーが不意に声をあげて泣きだし、「はい」と小さく唇だけ動かして認めました。
 わたしはショックで呆然となりました。家族のひとりが自殺するだけでも耐えがたいことなのに、両親がふたりそろって自殺してしまうなんて想像を絶しています。悲痛な思いがわたしの心にあふれ、ナンシーに対する同情と共感がこみあげてきました。わたしは数分ほど中断して気持ちを落ちつけねばなりませんでした。本当に耳を疑う出来事でした。
 「すみませんね、ナンシー。なまなましい描写をするつもりはないんですが、受け取ったままをあなたに伝える必要がある。あなたのお父さんは自分で左のこめかみを撃ち抜いた。あなたはそれをご存じのようですね。そうなんですか?」
 「はい、父を発見したのはわたしですから。一日じゅう連絡を取ろうとしてたのに父が電話に出なかったので、仕事の帰りに家に寄ってみたんです。書斎に入ってみると、父が椅子の背にもたれこんでました。腕がだらりと垂れて、その下の床に拳銃が転がってました」
 「それは、なんと申しあげていいのか。本当にお気の毒な話だ。自分が間違っていたとお父さんが言ってますよ。お母さんを失って生きていく張りがなくなってしまった。あなたやジョンの重荷にもなりたくなかった。あなたたちにはあなたたちの生活があったのだから。これは不思議だ。前にもこういう話を聞いたことがある。お父さんはこう言っていますよ。どっちみち自分の人生は終わりかけていたのだから、そちらに長居する必要はなかったんだ、と」
 「どういう意味ですか?」
 自殺した場合、その人に定められた本来の死の時間が来るまでは地上との絆が切れないものだ、とわたしはナンシーに説明しました。つまり、彼女の父親の寿命はまもなく尽きるところだったのでしょう。従って、自殺しても、物質界に残された時間はその分だけ短かった。父親が妻に出迎えてもらったこともナンシーに伝えました。
 すると、ナンシーが尋ねました。「でも、どうやって母にそんなことが?」
 「あなたのお母さんは霊の世界ではほんの少しばかり高いレベルにいたんですよ。高いレベルから低いレベルに戻って、ほかの霊を援助することはできるんです。しかし、低いレベルの霊は、自分でその資格を獲得しないかざり、高いレベルには行けません」
 ナンシーはこの概念にいささか戸惑ったようでしたが、これが彼女にとって形而上学的世界への第一歩となりました。形而上学をもっと勉強すればこの概念が理解できるようになるでしょう、とわたしは彼女を励ましました。
 「ナンシー、お父さんはふたたび幸せになったとあなたに伝えてほしいそうです。今はお母さんと一緒なんだから、と」
 「それを聞いてわたしも幸せです。ほんとに父のことが心配だったので。無事だとわかってこんなうれしいことはありません。ふたりが今は一緒なんですからね。そうなんでしょ?」
 「ええ、一緒ですとも。おや、お父さんが湖の話をしてますね。いや、湖畔にある家のことかな。桟橋でお父さんが釣りをして、それをお母さんがながめている、と。これはどういうことだろう?」
 「ああ、それならわかります。わたしが小さいころ、湖のそばにサマーハウスがあったんです。父はわたしたちを桟橋まで連れだして釣りをしたものですわ。わたしも釣りかたを教わりました」
 「なるほど、お父さんは天国にいることをあなたにわかってもらいたいそうですよ」
 「釣りをしてるくらいですもの、確かにパパは天国にいるんだわ」

 こうしてわたしたちは交霊会を終え、霊やガイドたちに感謝を捧げました。そして、今日の情報がナンシーの癒やしに役立つようにと特別な祈りも付け加えたのです。その祈りが通じたことはすぐにわかりました。帰りぎわ、ナンシーがわたしのほうを振り向き、まだ目に涙をためながらこう言ってくれたのです。「本当になんて言ったらいいのか。まさに奇跡です。おかげで、気持ちがすっかり楽になりました。安らぎに包まれた感じ。十年以上も捜しつづけて、それでも見つけられなかった安らぎです。助けてくださってありがとうございました。すばらしい体験でした。本当にありがとう!」

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.176-186






 b-48 (五十回目の結婚記念日を霊界の妻と祝う)

 大変感動的な再会が数年前にありました。深い愛情で結ばれたひと組の男女の太い絆をそこに見ることができたのです。わたしはラリー・グレイという男性から電話をもらいました。年齢は七十代後半で、まるで演劇でもやるような深みのある声、そして、穏やかな話しかたでした。友達からわたしのことを聞いて、“ある特別な行事”を助けてもらえるかもしれないと思ったそうです。「それはなんですか?」とわたしは尋ねました。もうすぐ五十回めの結婚記念日なので、「ぜひ家内とその記念日を祝いたい」という返事でした。唯一の障害は、その妻がすでに亡くなっていることでした。お力になれるでしょうとわたしは答え、日取りと時間を決めました。

 わたしは腰をおろすと、自分の仕事について説明しました。冒頭の祈りを唱え、それが終わってラリーの右隣りに目を向けると、そこに、四〇年代ふうのドレスを着た美しいブルネットの女性が見えました。「薄いピンク色のドレスを着たケイがあなたの横に立っていますよ。まるで女優さんのような印象だ」
 「実際、家内は女優でしたからね。わたしたちはバークレーの芝居で出会ったんです」
 「彼女があなたをラヴ″と呼んでいます。あなたの名前の代わりにラヴと言ってますよ」
 「すばらしい。わたしたちはいろんな呼び名で呼び合ってました。いやはや、わたしはこんなおじいちゃんになってしまって。すっかり白髪頭だ」
 「わたしはあなたの心と結婚したのであって、髪の毛と結婚したのではない、と彼女が言ってます」わたしとラリーは笑い声をあげ、そして、先を続けました。
 「ケイがこう言ってます。あなたは美しい声の持ち主だ、と。いつも歌を歌っている、と」
 「ええ、そのとおりです。週末にはいつもクリスチャンサイエンス教会に行って聖歌隊で歌ってるんですよ。やることがあるっていうのはいいですからね。みんな、とても親切にしてくれます」
 「今度はあなたがたの結婚式の話をケイがしていますよ。おふたりが結婚式をあげたのはカリフォルニアではなかったんですか? たとえば、ニューヨークとか?」
 「ええ、ニューヨーク・シティでした。家内は結婚した年を覚えてますか?」
 「一九四〇年だとおっしゃってますね」
 「そう、そのとおりです。教会はどうでしょう? 教会の名前がわかるでしょうか?」
 「ちょっと待ってください」わたしは数分ばかり待ちました。結局、わかったのは俳優の教会ということだけでした。
 ラリーが答えました。「そう、あの教会はちょうど通りの角にあって、周辺の劇場から俳優たちが通ったものです。わたしたちがどこに住んでいたか、家内は話してくれるでしょうか?」
 わたしはこの質問をラリーの妻に伝え、しばらくして口を開きました。「アップタウンについて話してますね。アッパー・ウエストサイドにある小さなアパートのようです」
 「おお、すごい、すごい。そのとおりです。ワシントン・ハイツというところでした。いやあ、これは興奮してきますな」
 「ラリー、彼女が何かフィラデルフィアについて話してます。フィラデルフィアについて思い当たることがありますか〜」
 「はい」
 「汽車でフィラデルフィアまで行ったそうですよ。フィラデルフィアに親戚でもいらしたのかな? どうです、わかりますか?」
 「結婚したあと、わたしがフィラデルフィアの教会をやめてニューヨークの教会に移るまで、日曜ごとに向こうへ行かなきやならなかったんですよ」
 わたしは笑いながら手をたたいた。「なるほど、すごい、すごい。わかりました。では、先を続けましょう。ケイは亡くなったときにひとりだったと言ってます。自分がそれを望んだ、と。どうかそのことで悲しまないでほしい」
 「ああ、あんなつらかったことはないよ、ケイ。本当に、もう少し待ってくれたってよかったろうに」
 「いいえ、彼女はあのときに行かねばならなかったんですよ。奥さんはとっても素敵な方ですね。きれいな帽子をかぶっている。デザインから見て四〇年代のものらしい。帽子をかぶるのが大好きだったと彼女が話しています。よくあなたに言ったそうですね、これから帽子を買いにダウンタウンへ行ってくるわ、と」
 「ええ、そうなんですよ。いやはや、あれからずいぶんたったものだ。でも、ケイは帽子が大好きでした。まったく、あの帽子のコレクションはみごとだった。家内はとってもおしゃれでしてね。華やかな色彩が好きで、美しいものが好きだったな」
 「今でも好きですよ。ピアノについて話をしていますね」
 ラリーは笑いだし、ぜひピアノの話を聞かせてくれとケイに訴えました。
 「あなたの家にピアノがあるそうです。彼女はそれを弾くのが大好きだった。いつもピアノを弾いていた。ワグナーのことも何か言ってます。これはどういうことかわかりますか?」
 「ええ、もちろん。驚いたな! ケイのためにピアノを買って、それが今でもうちにあるんです。でも、ピアノを弾いたのはわたしで、家内は全然弾かなかった。ピアノの演奏はいつもわたし。家内はわたしと一緒に歌ったんです。編曲も立派なもんだったな。覚えてるかい、ケイ? ああ、わたしは今でもピアノを弾いてるよ。わたしの演奏を家内は見てくれているんでしょうか?」
 「ええ、確かに見ていますよ。左側の同じ場所に立ってます。昔のようにね。さっきのワグナーの話はなんなんですか?」わたしはラリーに尋ねました。
 「それは、あのう、ちょっとお恥ずかしいんですが、わたしは古いレコードを集めてるんですよ。かなりのコレクションでしてね。特にクラシックが大好きで、このところ、ワグナーをかけてたんです。変わってるかもしれないが、一日じゅうかけっぱなしでね。落ちつくんです。べつにかまわんでしょう。人を傷つけるわけじゃないんだから」
 「ええ。プレーヤーの針が傷むだけですね」わたしたちはなごやかな笑い声を立てました。わたしはメッセージの残りを伝えました。
 「ラリー、ケイがこう言ってますよ、さっき墓地であなたと一緒だった、と」
 「ああ、今日はわたしたちの結婚記念日なんです。今も愛してることを教えてやりたかった。あそこでケイのことを考えてました。じゃあ、知ってたんだね、ケイ?」
 「ええ、奥さんはあなたが来てくれたことをとても喜んでます。墓地に持ってきてくれたバラの花が気に入ったそうですよ」
 「いやあ、たいしたもんじゃない。気に入ってくれればと思っただけでね」
 「確かに気に入ってくれてますよ。彼女が地下の納骨堂を見せていますね。奥さんは納骨堂にいらっしゃるんですか?」
 「ええ、そうです。いずれわたしも家内の隣りに行きます」
 「奥さんが花を持ったあなたを示しています。変だな、彼女は手に棒のようなものを持っている。どういう意味かわからないな。あなたならわかりますか?」
 「ええ、たぶん。墓地へ行ったとき、家内の納骨棚の前に花を飾るために棒状の柱をつかまなきやなりませんでしたから。家内の納骨棚は上段のほうなんですよ。彼女はそのことを言ってるんじゃありませんか?」
 「はい、そうです。ずっと上だといった話をしてますね」やがて、ケイが早口でメッセージを伝えてきました。わたしは上を見て、「なるほど……わかりました……ありがとう」と答えました。それからラリーに顔を向けました。「奥さんの納骨棚は奥のほうですか? なんだか、曲がりくねってますね。たどりつくまでが大変そうだ。奥に進んで、大理石の階段をおりて、それから横へ。彼女がそう伝えてきています」
 これはラリーにもよくわかりませんでした。わたしはケイのメッセージを解読しょうとするうちにすっかり迷路に迷い込み、ラリーまでそこへ誘い込んでしまったようです。わたしは先を続けました。
 「ケイの隣りにご婦人が立っています。非常に特徴のある声だ。とても演劇的です。オペラも歌ったようですね。彼女もやはりピアノの話をしてますよ。どうしてかおわかりですか?」
 「ええ、もちろん。それはエスターです。すばらしい歌手でした。わたしたち三人はよく一緒に舞台の仕事をしました。何年もわたしのピアノの先生でしたしね。ああ、それにしても、彼女の話が聞けるなんて実にうれしい」
 「向こうには大きな演劇界があるのだとこのご婦人が話してますよ。ボイストレーナーや音楽の教師が大勢いるそうです。でも、違いがある、と彼女が言ってます。現世のような音楽ではない。もつと純粋だ。こちらでは完全なハーモニーがある。現世でもハーモニーの話はするが、真実には遠くおよばない」
 「すばらしい」
 リーディングはさらにしばらく続き、ラリーの妻と教師が地上で分かち合った過ぎ去りし日の思い出を語りました。それはなんともすばらしい五十回めの結婚記念日でした。もう何も言うことなんてないのではなかろうか、とわたしは思いました。すると、ケイが言ったのです。
 「ラリー、パリについて何か知ってますか? つまり、あなたはケイとパリで過ごしたことがあるんですか?」
 「ええ、確かに。家内はなんて言ってるんです?」
 「パリのエッフェル塔にのぼったと話してますね。あのときは本当に幸せだった。これはどういう意味でしょう?」
 ラリーが涙を流しました。彼はティッシュを出して目頭をぬぐうと、わたしをまっすぐ見つめました。「わたしもあのときは本当に幸せでしたよ。ハネムーンの初日にエッフェル塔にのぼったんです」
 「あなたと一緒に暮らした人生そのものがハネムーンだった、とケイが言っています」
 ラリーが微笑を浮かべ、わたしはメッセージを続けました。
 「奥さんはこれからもずっとあなたと一緒ですよ。それに……待ってください、彼女がこう言ってます、家に帰って、わたしのためにピアノでラヴソングを弾いてほしい、と」
 それを聞いたラリーは笑顔で言いました。「そう、まさにこれはケイだ。彼女はしゃべりだしたら止まらないんです」
 「これからも奥さんはそのままですよ」とわたしは答えました。

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.199-207






 b-49 (霊界にいる愛犬からのメッセージ)

 わたしの仕事にどれだけ豊かな意味があるか、それは互いに深く愛し合う人びとの架け橋として遭遇するさまざまな状況によって決まります。少なくともわたしはそのように考えていたのですが、あるとき、一本の電話を受け取りました。紹介者の女性の話では、耳の不自由な女性がわたしと話したがっているということでした。「わかりました」とわたしは答え、その紹介者がわたしたちの会話を通訳しました。その女性はスーザンという名前で、ひどく落ち込み、リーディングを希望していました。それが可能かどうか問い合わせてきたのです。わたしは承諾の返事をし、日取りを決めました。
 リーディングの当日、いったい何が起きるのかわたしにも確信がありませんでした。十一時に呼び鈴が鳴りました。ふたりの女性が玄関口に立っていました――ひとりはかなり細身で黒い髪、もうひとりはやや大柄で赤毛でした。細身の女性がキャシーと名乗り、自分は手話通訳だと自己紹介しました。
 わたしはふたりをなかに招き入れ、水を勧めました。「ここを捜すのが大変だったということはないでしょうね」と声をかけました。後ろを振り返ると、キャシーが忙しく手を動かしてスーザンに伝えていました。交霊室に移ると、スーザンをわたしの前にすわらせ、キャシーはわたしの背後に立ってスーザンに手話を伝えるのがいいだろう、ということになりました。・・・・・わたしは祈りを唱え、リーディングに取りかかりました。すぐさま彼女の家についての情報が伝わってきました。

 「大変奇妙なのですが、どうやらこれはあなたのお宅のようですね。窓の下に茶色がかったソファがあって、色のついた毛布かキルトのようなものが掛けてありませんか?」
 手話のやりとりが交わされたあと、キャシーがスーザンの答えを伝えました。「ええ、そのとおりです。窓のすぐ下にあります。毛布はソファに掛かってますが、いつもというわけじゃありません」
 いくら手話通訳とはいえ、背後に立っている人物から返事を受け取るのはいつもと勝手が違っていました。
 わたしは先を続けました。「そのソファの右側に金属製のスタンドがあって、そこに何枚かの写真があります。その棚には、プラスティックか絹でできている花のようなものもありますね。これについてはわかりますか」
 「はい、確かにそのとおりです」
 「オレンジ色のカーペットも見えます。二、三カ所すり切れてますね。特に、ドアに近い部分が。これがあなたのアパートメントの玄関に間違いないでしょう。キッチンも見えます。あ、ちょっと待ってください。この情報を誰が送ってきているのかわからないんです。訊いてみましょう」
 わたしは霊に名乗ってほしいと頼みました。返事がありません。そこでわたしはじっとすわっていました。すると、冷蔵庫に貼りつけたたくさんの写真が見えてきたので、それをスーザンに伝えました。「冷蔵庫に写真が何枚も貼ってあります。犬の写真が多いですね」
 スーザンが笑い声を立てました。彼女の愛犬の写真だということです。リーディングを続けると、不意に、あふれんばかりの愛が部屋いっぱいにみなぎりました。それは気高い無条件の愛でした。そして、わたしの口からだしぬけに言葉が飛びだしたのです……「チャーリー」、と。
 それを聞いたとたん、スーザンが激しく泣きだしました。わたしは途方に暮れ、彼女を見つめたまま、返事なり説明なりが聞こえてくるのを待ちました。わたしが彼女の心の琴線に触れたのは間違いありません。それがなんなのか知りたかったのです。
 キャシーがスーザンの通訳をしました。「はい! チャーリーはわたしの犬です。チャーリーと交信したくてこちらへ伺ったのです。あの子が二か月前に死んで、わたしは寂しくて寂しくてたまりません」
 わたしは自分の耳を疑いました。霊がなかなか名乗ってくれなかった理由がこれでわかりました。あの情報を送ってきたのは犬だったのです! 犬は自分なりに理解できる品物をわたしに見せていたのでした。
 スーザンは忙しく手を動かし、やがてキャシーがそれを伝えました。「チャーリーはあのソファが大好きでいつもすわっていたそうです。お気に入りの場所は毛布だったんですって。時どき、玄関のカーペットに爪を立てて、何かを埋める真似をしていたそうです」
 「なるほど。やけに低い角度から情景が見えるので妙だとは思ったんですが、これでわかりましたよ。わたしはチャーリーの目を通して見ているわけだ」
 そのあとふたたびリーディングを始めました。「チャーリーがあなたに愛を伝えています。赤いライトを見せていますね。この赤いライトで何かしたそうですよ」
 スーザンはすっかり興奮し、熱狂的な仕種でキャシーに手話を送りました。「はい、それは電話が鳴っていることを知らせる赤いライトです。ライトに気づくとチャーリーがそばに寄ってきてわたしをこづきました。ほんとにすばらしい犬でしたわ!あの子には人間的な資質がそなわっていたんです」
 「彼は宝石のついたきれいな赤い首輪を持っていたそうですよ……ああ、まるでダイヤモンドみたいだ。もちろん、本物のダイヤではないでしょうが」
 スーザンは声をあげて笑い、確かに本物ではないが、本物みたいに輝いていたと答えました。牡犬のくせに“女っぽい首輪”をつけていると人びとがからかうので、そのたびに彼女は腹を立てたそうです。
 わたしは軽い笑い声を立てました。「あなたはチャーリーを連れて角の店まで行き、パンとミルクを買っていたようですね」
 「ええ、そのとおりです」
 ここでわたしは噴きだしてしまいました。チャーリーがとてもおかしな想念を伝えてきたので、そのメッセージを伝えました。
 「流し台でお風呂に入れられるのは好きじゃなかった、とチャーリーが言ってますよ」
 「ええ。毎週金曜日の晩にお風呂に入れてました。おっしゃるとおり、あの子はお風呂が大嫌いでした。いつもいやがって抵抗してましたわ。しばらくして慣れたようですけど。ひとつ質問してもよろしいですか」
 「はい、どうぞ」
 スーザンは静かに涙を流しはじめ、手振りで質問しました。「死んだとき、チャーリーはずいぶん苦しんだのでしょうか? それから、ごめんなさいね、ってあの子に伝えてください」
 「いつかはわかりませんが、チャーリーは脚を悪くしたんですか? つまり、歩けなくなったんでしょうか? というのは、右側に痛みを感じるんですよ」
 「最後のころはそうでした。投薬を受けてましたから」
 「糖尿病があったことはご存じですか?」
 「はい。腎臓も悪かったんです。あの子があなたにそう言ってるんですか?」
 「ええ、死ぬ前にどこが悪かったか、それを想念として伝えてくるんです。あなたを深く愛している、あなたに助けてもらった、ということも言っています。彼を安楽死させたんですか?」
 「ええ、でも、わたしはいやだったんです」
 「チャーリーは最後にとても苦しんでいました。あなたは彼を助けたんですよ。おわかりですか?」
 スーザンは答えませんでした。うつむいて首を上下に小さく振りました。
 「チャーリーは今でもあなたのベッドの端で一緒に寝ているそうですよ。意味が通じますか?」
 「はい。あの子はいつも夜中にベッドにあがってきました。目が覚めてみると、隣りの枕にあの子が頭をのせてるんですよ」
 「アイヴィーという名前の人物に心当たりは? 変わった名前ですが、どうもこれは名前のような気がしますけど?」
 スーザンは首をひねって考えましたが、そういう名前は思い浮かびません。しかし、数分後、彼女は不意に気づきました。「そうです!先週、電話で彼女と話したばかりでした。新しい犬を捜してくれているんです。聴覚障害者のための聴導犬はなかなか見つけるのがむずかしくて。でも、一匹見つかりそうだって教えてくれたんです」
 「非常に強いバイブレーションというか感覚的なものがチャーリーから送られてきています。あなたがその新しい犬を飼う、これでもうひとりぼっちではない、と。自分が手を貸してその犬に必要なことを教えるから、とチャーリーは言ってますよ。ちなみに、彼は白い犬を見せていますね。ハスキー犬に似ているようだな」
 スーザンはすっかり興奮していました。「それです、アイヴィーが捜してくれたのは」
 「その犬をお飼いなさい。あなたはもうひとりじゃない、ってチャーリーが言ってますよ!」
 最後にわたしたちは霊界の助力に感謝し、そして、霊たちにスーザンの今後の人生を助けてくださいと頼んだのでした。

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.207-214






 b-50 (アルツハイマーを患って亡くなった父からのメッセージ)

 アルツハイマー病にかかった友人や家族についてはわたしのところにも多くの質問が寄せられます。たとえば、次のようなものです。わたしの言葉が聞こえてるんでしょうか? わたしが見えているんでしょうか? あの人たちはどこにいるんでしょう? まだここにいるんですか? もう死んでるんですか? 魂が肉体から離れてしまっているんですか? 魂は生きつづけていけるんですか? いったいどうなってるんですか?
 わたしはある日、シデルという名のチャーミングな女性と面会しました。彼女は親しい友人の勧めで訪れたのです。父親が亡くなって、いくつか解決すべき問題がある、とリーディングの最初に彼女が言いました。特に、父親が安らいでいるかどうか知りたかったようです。
 セッションを始めて真っ先に感じたのは、シデルが非常に神経を高ぶらせて不安定な状態にあるということでした。このリーディングだけでなく、彼女自身の将来についても確信が持てないのでしょう。彼女の頭にはたくさんの疑問が渦巻いているようでした。そんな彼女に対して、霊と交信することであなたの不安や悩みがきっと解消されますよ、とわたしは元気づけました。わたしは彼女のエネルギーに同調を始めました。すぐさま、彼女と母親のあいだに交錯するちょっとした敵意が伝わってきました。

 「シデル、あなたはお母さんと話をしていますか?」
 「はい」
 「詮索するつもりはないのですが、あなたはお母さんと必ずしもうまくいってるとは言えないような感じがします」
 「どういう意味かよくわかりませんが」
 「時たま、お母さんがあなたにとって重荷に感じられるようですね。あなたはつい我慢ができなくなる」
 「ああ、確かに。そうですわ。母が相手だと何を話すのも大変なんです」
 セッションに変化が起こりました。わたしの背後で何かの扉が開いたような気がしました。そして、突然、人びとがどっと入ってきたのです。
 「いきなりこの部屋が満員になったような感じですね。待ってください……誰がここに来ているのか確かめてみましょう」目を閉じると紳士の姿が見えました。その紳士は背筋をぴんと伸ばして立ち、真剣な表情を浮かべています。彼は頭がぼうっとなるような印象をわたしに伝えてきました。
 「シデル、あなたのお父さんがここにいらしています。お父さんは亡くなる前に頭に何か異常があったようですね。患部は頭だったという印象が明確に伝わってきます。それに、長らく病院か保養所のようなところに入ってらした。お父さんは長期間寝たきりだったんですか?」
 「はい、父は十三年間アルツハイマーを患いました」
 「ああ、どうりで頭がぼうっとする感じを受けたわけだ。お父さんはまったく信じられないんですよ。実際、今でも新しい環境に完全には順応できていないと感じている。つまり、周囲を見まわして強い不信に襲われてしまうわけです」
 「そうですね、確かに父はこういうことを信じてなかったし」
 「かもしれませんが、しかし……お父さんは蝋燭を灯してくれてありがとうと感謝していますよ。意味が通じますか?」
 「はい。父が病気のあいだ、無事にあの世へ行けるようにと蝋燭を灯しました」
 「お父さんは感謝しています。お祈りをしてくれたことに対しても。彼にとって大きな手助けになりました。まだ頭が混乱しているけれど、少しずついろんなことがはっきりしてきた、と彼は言ってますよ。葬儀は教会堂で行なわれたんですか?」
 「はい」
 「お父さんもそこにいました。あなたがたみんなを見ていたそうですよ。でも、参列者の数にいささか驚いたそうです。倍の人数を予想していたから」
 「父にはたくさんのお友達がいたんです。でも、父は長いあいだ寝たきり状態でしたから、お友達があまり残ってなかったんです」
 「ジャックとは誰のことですか?」
 「父です。父の名前ですわ」
 「お父さんはアフリカ製の毛布と、それから、写真についても何か言ってますね。写真を全部見たそうです。お父さんの写真を飾ったんですか? お父さんの生涯を物語る何枚かの写真を?」
 「はい、そのとおりです。葬儀のとき、アフリカの毛布を広げて、その上に父の写真を並べました。父の一生を描いたコラージュにしたかったんです」
 「ローズとは誰です?」
 「父の母です」
 「亡くなったとき、ローズが迎えにきてくれた、とお父さんが言っています。ずいぶんひさしぶりで会ったそうです。そのとおりですか?」
 「父がまだ子供だったころに亡くなってますから」
 「彼女はおもしろい人ですね。キッチンであなたを見ているそうですけど、ご存じでしたか? あなたの着る服の趣味も大好きだそうだ。裾がゆるやかに広がったドレスを、見せてくれています」
 シデルは大声で笑い、祖母を誘いだしてくれてありがとうと言いました。「わたしは祖母を知らないんですけど、そばにいてくれるのかと思うととてもうれしいですわ」
 ジャックがふたたび話しはじめ、わたしはメッセージを伝えました。「お父さんがマークという名前を口にしています。その人物を助けたそうですよ」
 「マークはわたしの兄です。どういうことか興味がありますね。なにしろ、父の死後、マークが事業を引き継いでますから」
 「マークはジャックのカフリンクスかタイピンを持っていませんか?」
 「ええ、兄は父のカフリンクスを身につけています」
 「壁一面に賞状やメダルが飾られたオフィスにお兄さんはすわっていますか?」
 「はい、父のオフィスを使っていますから。オフィスは父がいたころのままなんです。その賞状やメダルは最優秀セールスマンとして受賞したものです。デスクの後ろの壁に掛けてあります」
 「お父さんが濃いグリーンの椅子を見せています。オフィスではその椅子にお兄さんが腰かけています。座部に小さな裂け目かほころびがないか、お兄さんに訊いてみてください。場所は右側で、すわったときにちょうど脚の下の部分になります」
 「なんだか不思議ですね。でも、ちょっといいですか? 実は、椅子が古びてきたんで新しいのを買わなきゃって、兄が言ってたんですよ。裂け目があるかどうかは知りませんが、兄に訊いて確かめてみます。ほんとにすごいわ」
 依頼人があちら側の世界にビジネス上の相談を持ちかけることは稀です。将来性に関する知識が霊界にあるとはかぎらない、とわたしは依頼人に念を押します。以前にも述べたとおり、カルマの法則も含めてあまりにも多くの要因が関係しているからです。わたしはこのように話します。「霊に尋ねることはできますが、決断はあなた自身が下さねばなりませんよ。あなたの人生をどのように歩むか、ビジネスをどのように動かしていくか、そういったことを教える責任は霊にはないのですから」
 わたしはシデルにも同じことを話しました。彼女は、もともとは父親が始めた事業なので父のアドバイスを歓迎すると答えました。「きっと父は適切な助言をしてくれると思います」
 わたしは受け取ったメッセージを伝えました。「お兄さんは事業のパートナーを捜そうと考えておいでなんでしょうか?」
 「さあ。でも、訊いてみます」
 「わかりました。お父さんはこの事業でお金を儲けるのは非常に厳しいと言っています。かなりむずかしいようだ。しかし、いずれ変化があるので辛抱強く待ちなさい。最後は事業を売却することになるだろう」
 シデルがあえぎ声を洩らしました。事業を売却する意思などまったくないと彼女は言いました。むしろ、できるかぎり長く家族で経営を続けていくつもりだ、と。
 「お父さんはこう言っています。自分はいつも事業のことばかり心配して、それが人生のすべてになっていた。子供たちに同じような生きかたはさせたくない。現世で生きているときに、仕事以外のことをもっとやっておけばよかったと今は悔やんでいる。時間のゆとりさえあればもっといろいろなことができたのに。自分は仕事に関して厳格で要求も厳しかった。きつい仕事をこなすことで自分の力を証明したかったのだ。その気になれば子供たちからだってたくさん学べただろうに、と彼は言ってます。今はあなたがたからいっぱい学んでいるそうですよ」
 シデルは父親と同じように感激していました。やがて彼はシデルの母親について話しだしました。
 「お父さんがあなたのお母さんの心配をしています。あなたたちふたりが口論しすぎると言ってますよ。お父さんは今でもお母さんに愛情を持っているし、以前より理解が深まったそうです。お母さんは不満をかかえています。世間はわたしに何もしてくれないと思っている。でも、人間は自分で人生を生きていかねばならない。そのことをお母さんにはっきり教えてあげてください」
 「わかりました」
 ここでお父さんに何か質問はないかとわたしは尋ねました。このときのシデルの質問をきっかけに、アルツハイマー病の患者に対するわたしの考えかたが変わったのです。
 「アルツハイマー病を思っているあいだ、父はどこにいたんでしょうか? つまり、父の霊はどこにいたんですか? 霊は死んで、どこかよそへ行ってしまったのかしら?」
 「それは興味深い質問だから明快な答えができるように精いっぱいがんばってみよう、とお父さんが言っています。この現世と天界では理解に大きな違いがあります。お父さんはほとんど無自覚の状態で、うつらうつら眠っているような感じだったそうですよ。体から外に出て、ベッドに横たわる自分の肉体や病室の人びとを霊の目でながめていたときもあったそうです。彼には時間の感覚がなかったので厄介だった。わたしたちが現世で持っているような時間と空間に対する明確な意識がなかったんですね」
 「父にはまわりにいる霊の姿が見えたんでしょうか?」
 「ある種のエネルギー体として感じていたようですが、そういった人びとが誰だかわかったのはやはり亡くなってからです。父親らしい人物とローズが迎えにきてくれた、と彼は言ってます」
 ほかにもアルツハイマーにかかった大勢の人びとが霊界から同じような答えを返しています、とわたしはシデルに説明しました。なかには自分のいる場所がわからない人もいます。最後までずっと眠ったままの人もいます。もちろん、体外に出て家族の存在に気づく人もいますし、なんらかのメッセージを伝えようとする場合も多いのです。
 シデルはさらに質問しました。「どうして父はあんな病気を体験しなければならなかったんでしょう?」
 「そう簡単には理解してもらえないだろう、とお父さんが言っています。ですが、信じる信じないは別にして、お父さんはこの現世に現われる前からすでにこの道を選んでいたのです。バランスを取るためにどうしても経験しなければならなかったそうですよ」

 さらに、わたしなりに理解していることを補足として付け加えました。病気を克服して強くなり、なおかつ、リンクを断ち切って一族の家系から病気を消滅させるためにも、霊がなんらかの病気と関わらねばならない場合が多いのです。
 このセッションは何年も前のことでしたが、それ以来、わたしとシデルは友達になりました。数か月ごとに彼女から近況を伝える電話が入ります。つい最近、彼女はこんなことを話してくれました。「あなたは忘れてしまったかもしれないけど、最初にリーディングをしてもらったころ、わたしは父に事業のことを訊いたのよ。父は、いずれパートナーが見つかって、最後は売却するだろうって言ったわ。実はね、数か月前、兄がパートナーと手を組んだの。そして、今は販売権売却の書類にサインしてるところよ」

   ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.216-224






 b-51 (登山中に事故で亡くなった息子からのメッセージ)

  次にご紹介するのは数多いセッションのなかでも最も認知度の高いもののひとつです。セッションの一年後、このすばらしいリーディングの内容が口伝えで広まり、NBCの番組『未解決ミステリー』がセッションの再現ドラマを作ろうとしました。それから数か月後、わたしのそっくりさんを捜すオーディションが開かれました。さらに数か月後、番組の録画が行なわれました。この録画は二年前でしたが、それ以来、『未解決ミステリー』のなかでも最も評判の高い人気エピソードとなり、〈ライフタイム〉のケーブルチャンネルでたびたび放映されています。わたしにとっても忘れられないセッションのひとつです。
 それは一九九五年の六月でした。わたしはアパートメントの外にすわって次の依頼人を待っていました。予定表を確かめてみましたが、六時の予約客ドンとスウ・ラスキンという名前に心当たりはありませんでした。六時五分前、ひと組の男女が道を歩いてきました。ふたりを初めて見たときの印象は今でもよく覚えています。男性のほうは具合が悪そうでした。実際、病人に見えました。一緒の女性はてっきり娘だろうと思ったのですが、実は奥さんでした。
 冒頭の祈りを終えるとすぐさまわたしのまわりに数人の霊が現われました。女性のエネルギーも感じられましたし、非常に強力な男性のエネルギーもありました。わたしは感覚的に受け取った印象や情報を伝えながら、依頼人が交信を望んでいる人物たちの霊であればいいがと思ったものです。

 「あなたがそこの戸口から入ってらしたとき、若い男性が後ろに立っていたんですよ、ドン。若くして亡くなったようですね。息子さんがおありでしたか?」
 ふたりは驚いて互いに顔を見合わせました。そして、ドンがゆっくりとわたしのほうを振り向き、確かにそのとおりだと認めたのです。
 「はい」
 「彼は心から深くあなたを愛していると言ってますよ。あなたは何も恐れることはない、と。彼はあなたを本当に愛してるんですね。愛してる。彼は何度もわたしにそう言ってます。Aというイニシャルに何か心当たりは? 彼の知り合いにアダムという人物がいたでしょうか?」
 「さあ、いないと思いますけど」とスウが答えました。
 わたしはドンのほうを向いて彼の父親と母親について話しました。「あなたのお父さんとお母さんが今夜ここに来ている、と息子さんが言っています。ふたりは息子さんと手に手をとってやってきた。Mというイニシャルはわかりますか?」
 「ええ、それはわたしの父です。マイクが父の名前です」とドンが答えました。
 「女性もいますね、名前はリリーかミリーか、いや、エリーかな」
 スウが声をあげました。「それはわたしの姉です。姉ももう亡くなってますから」
 「彼女はバブズとも呼ばれてましたか?」
 「はい、特にその呼び名を」
 「お姉さんはおもしろい方ですね。彼女はあなたのお父さんと一緒になって笑いこけてますよ。うまが合うんだな。でも、息子さんが話したがっている。ぼくが今夜の主賓だって言ってます。彼は病院にいたんですか?」
 「ええ」
 「とてもつらかったそうです。それは思いがけない出来事だったんですか? みんながショックで呆然となった、と彼が話しています。予想もしていなかったことだ、と。何かの事故だったようですね。頭部にけがをしたんですか?」
 「はい、そのとおりです」
 ラスキン夫妻は互いに手を取ってきつく握りしめました。
 「息子さんは頭の痛みを訴えています。首も痛めたようだ。彼はヘリコプターに乗っていたんですか? つまり、彼にはヘリコプターに乗った経験があるようなんです」
 「ええ。息子はヘリコプターで病院に運ばれました」
 「彼は登山の感じを強烈に伝えてきています。山を見せてくれてますね。足をすべらしたか、転落したような感じも伝わってきます。どういうことかおわかりですか?」
 ラスキン夫妻はそろって泣きだし、この情報が正しいことを認めました。
 わたしは先を続けました。「いつかこういうことが自分の身に降りかかるのではないかと息子さんは日頃から思っていたそうです。いつも不安をかかえて生きていた。あなたがたにはどうすることもできなかった。その気になれば彼を引き止められたのではないかと思って、自分を責めるのはやめてほしい。息子さんはスカイダイビングについて考えたことがありますか? わたしにスカイダイビングを示しています。たとえ山で死ななくてもスカイダイビングで死んだだろう、と彼は言ってますよ」
 ドンがロを開きました。「息子は昔から冒険好きでした。次から次へといろんなことをやってましたよ」
 「写真も好きだったんですか? 世界じゅうのあちこちで写真を撮ったと言っています。息子さんはちゃんと知ってますよ、あなたがたが彼のアルバムを見ていたことを。でも、いくらアルバムの写真を捜しても、今いるところがわかるような写真は一枚もないそうです。この空の色ときたら……色彩がとても豊かだ。表現のしょうがない! 淡いバイオレットやピンクの色合いが何層にも重なっている。ぼくのことは心配しないで、と彼が言ってます。こっちで大きな冒険をしているから。タム、あるいは、タミーとは誰のことですか?」
 「彼の妹です」
 「では、息子さんからの愛を伝えてあげてください。妹さんの優しい好意、温かい思い、心からの祈り、そして、愛、すべてに感謝しているそうです。本当にうれしかった!」
 「ええ、必ず伝えます」
 「彼の姪御さんが彼に手紙かカードを送りましたか?」
 ドンが答えました。「ええ、そうです。葬儀の席で」
 「息子さんはとても喜んでいた、と彼女に伝えてください。息子さんはマークという人物についても口にしてますね。そういう名前の知り合いがいたんでしょうか?」
 「ええ、それは息子の親友です」
 「ダグからよろしくと言ってください。いつもそばにいる、これからもずっと親友だ、と伝えてほしいそうです」
 それからわたしはドンに顔を向けました。彼はとても体調が悪そうでした。悲しみで身も心もいっぱいなのだとわかりました。体はまるで抜け殻のようです。わたしは父親の健康を気づかう息子の思いを伝えました。
 「ドン、潰瘍に気をつけてほしいとダグが言ってますよ。それに、なかなか眠れないそうですね。医者に行ったんですか?」
 「ええ、つい先週。睡眠薬を処方してもらいました」
 「おふたりに伝えてほしいそうですよ、あなたがたのおかげで最高に充実した人生を送ることができた、と。いつも支えてくれた。いつも信じてくれていた。ふたりは最高だ。最高の両親だ、と彼が繰り返し言ってます。葬儀では息子さんの写真を飾りましたか?」
 「はい」
 「たくさんの写真を貼ったボードを彼が見せてくれています。そのまんなかに大きな写真が一枚ある。その中央の一枚を選ぶのに苦労なさったそうですね」
 ラスキン夫妻は笑い声を立て、そのあと、スウが答えました。「それこそありとあらゆる写真を見て選んだんですよ。ダグの写真はあちこち旅行したときのものがたくさんありましたから」
 「彼は満員の式場内を見ながら、あなたがたによけいな面倒や手間をかけたくないなと思ったそうです」
 「あれはわたしたちが望んでやったんだ。息子の人生の最後を飾る式典なんだから」
 「ダグは、あなたがたが葬儀に選んだ音楽の話をしています。スコットランドかアイルランドの趣きがある曲だったようですね。たとえば、エンヤのような」
 「そう、そのエンヤを使ったんですよ!」とスウが言いました。
 わたしはドンのほうを振り向きました。ダグから次の質問を受けていたのです。
 「ドン、運動はしてますか?というのも、ダグが馬を見せています。おふたりで乗馬を楽しんではいかがでしょう?」
 ドンが答えました。「親友と一緒に乗馬にでかけてます。これはダグからもらったシャツなんですよ」
 「楽しんでよ、パパ。ぼくに代わって楽しんでほしい。気軽にね」
 このとき、非常に興味をそそる質問が伝えられてきました。その答えには今でも驚異を感じずにはいられません。
 「息子さんの写真の複写か、あるいは、加工された写真を持っていますか? まるで、秘密のジョークか何かのように、彼がその写真のことで笑ってるんですよ」
 「それはダグと一緒に旅行したときの写真です。うちの娘が気づいたんですが、写真の中央部に閃光のようなものが写っていて、それがハートの形の煙みたいなんですよ。そのハート形のなかに『愛してる』という文字が見えた。娘が引き伸ばしてもらったものなんです!」
 「ぼくがやったんだ、ってダグが言ってますよ。彼は大笑いしている。わかったかい? ぼくだったんだよ。ぼくからの贈り物だったんだ。天国からの絵葉書だと思ってほしいな」
 物質的存在さえも超越する愛の力がここでもまた示されたわけです。このあと交霊会にはドンの母親と父親、それに、ビー叔母さんが登場しました。ひとりひとりが幼い子供のころのドンを細かく物語りました。それからふたたびダグが現われてセッションの最後まで話を続け、死後生存の驚くべき証拠を示したのです。
 わたしはスウに尋ねました。「新聞記事をはさみで切り抜いていましたか?」
 「はい」
 「彼ら全員がその様子を見ていたそうですよ。それはいつでしたか?」
 「先週です。ダグの記事が新聞に大きく載ったものですから。彼の死についてなんですけど。単なる死亡記事ではなくて、富士山についての記事でした」
 「スクラップブックか、あるいは、思い出ノートのようなものを作ろうとしてるんですか? あなたがたがいろいろな記事を集めてるけど、まだしっかりと貼りつけていない、と彼が言ってます。軽く留めただけだ。ぼくはちゃんと知っている」
 ラスキン夫妻が微笑を見せました。わたしはさらに続けました。
 「キョウト。これはどういう意味ですか?」
 「日本の地名です。わたしたちも息子と一緒に京都にいました」
 「息子さんはバイク、そう、マウンテンバイクを持ってましたか? あなたがたはバイクについてご存じですか?」
 「あのバイクはわたしたちの家に送り返してもらいました」
 「彼は富士山のふもとで撮った写真がとても気に入ってるそうですよ。それをお持ちですか?」
 「いえ、登山隊の仲間が写真の現像をしてくれてるんですが、まだわたしたちのところへは届いていません」
 「では、このことを覚えていてくださいね」
 「ええ、もちろん」

 セッションはそれから十五分ばかり続きました。ラスキン夫妻は来たときとはまるで別人のような面持ちで帰っていきました。ドンの顔には、再生の道を歩みはじめた確かな証が現われていました。息子が今も生きているばかりか、いつも身近なところにいてくれるのだと、ふたりにはわかったのです。
 このダグ・ラスキンがただの平凡な息子ではなかったことが、あとになってわたしにもわかりました。どうやら、彼は天国から送られた天使だったようです。彼は数年間、海外を旅行しながら貧しい人びとを援助していました。貧しい人びとに届けるため、背中に食料を背負って急流を泳ぎきったことすらあったのです。彼は冒険心と情愛に満ち、彼とふれあいを持った人びとは誰もがその内なる光を感じ取ったのです。
 最初のリーディングから二か月ほどして電話が鳴りました。スウ・ラスキンでした。ちょうど郵便を受け取ったところだそうです。ダグが所属していた登山隊から写真が送られてきたのです。彼女はこう言いました。「最初に手に取った一枚が、富士山のふもとに立ってうれしそうに笑っているダグの写真でした」

  ジェームズ・プラグ『もういちど会えたら』(中井京子訳)光文社、1998、pp.224-223





 b-52 (心臓病で亡くなった16歳の息子が寝室に現れる)

 (南東部で法廷速記者をしているフエイは、十六歳の息子クリスが心臓病の見逃しによって亡くなったあと、悲嘆のどん底にあった。)

 息子のクリスが亡くなってから、あとを追うように夫も自殺しました。私たち家族は、二重の不幸にみまわれたんです。どんななぐさめも、役に立ちませんでした。
 夫が他界して、しばらくしたころです。夜明け前の、まだ半分眠っているような時間でした。朦朧状態というんでしょうか。
 クリスが、私のベッドに座っていたんです。ちゃんとした固そうな体に見えて、まるで生きている人のようでしたよ。まちがいなく息子だ、息子がそこにいるっていう感じがはっきりしたし、あの子の匂いまでしたんです。ちゃんと目と目が合ったし、笑っているのもわかりました。目の下の小さいホクロとか、あごがちょっと切れ込んでいるところも、そのままでした。
 とてもやすらいでいるように見えましたし、体が金色をおびて、とてもきれいでした。若返ったりはしていませんでしたけど、とても健康そうでした。あの子、こう言いました。
 「ぼく治ったよ。母さんにそれが言いたくてね。母さんを愛しているよ。ぼくのことはもう心配しないでね」それから、父さんも元気にしているけれど、あの人は問題を解決しなきゃならないからね」って。
 そのあと私は、三十分ほどもそのまま横になっていました。まるで子どものころみたいな、純粋な幸福感に浸っていたんです。これは神さまからの贈り物なんだ、クリスは本当に戻って来たんだ・・・・・頭にはそれしかありませんでした。そのときやっと気が晴れたんです。

  ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)、
    徳間書店、1999、pp.133-134






 b-53 (夢の中で霊界の息子を訪れて父母にも会う) 

 (ミズーリ州の主婦ロザリンドが、息子のチャーリーのところへ異例の訪問をしたのは、彼が一九八五年にオートバイの事故に遭い、十九歳で他界してから三年後のことだった。)

 ふだんどおりの晩でした。毎晩していることをすませ、シャワーを浴びたりして、十時ごろベッドに入りました。
 いつのまにか夢を見はじめて、とても明るいトンネルの中を歩いているんです。花の香りのような、甘い新鮮な香りが漂っていました。トンネルはいやに長くて、歩いても歩いても、なかなか出られないんです。
 やっと出口に着いたら、そこにチャーリーが立っているんですよ。ブルージーンに、いつも着ていたロックグループの揃いのTシャツ、それにテニスシューズという格好でね。幸せそうな顔は、生きていたころそのまま。一日じゆう冗談を言って笑い転げてたころと、少しも変わりませんでした。歳も取ってないし、とても元気そうでした。
 私の両親にも会いました。父は一九六六年、母は一九八〇年に亡くなっているんですけどね。昔と少しも変わっていませんでしたよ。これはてっきり「私も死んで、天国に来たんだわ」と思いました。
 すると、チャーリーが私をつかまえて、「母さん、なんでこんなところにいるんだよ」って。
 「あんたやおじいちゃんたちと一緒に暮らすためじゃないの」と言うと、「母さんは、まだ来るときじゃないよ」って言うんです。
 で、母と父のところへ行って、「一緒に暮らしに来たわ」と言うと、「だめ、だめ。あなたはうちに二人も子どもがいるじゃないの。ご亭主も孫もいるのよ。ちゃんと向こうにいなきゃ」ですって。
 「あたし、こっちにいたいわ。一緒に暮らしたいわ」と言いつづけたけど、両親は「だめ」の一点張り。「チャーリーの面倒は私たちが見るから、心配しなくていいの。あなたは早くお帰りなさい」そう言ってゆずらないんです。帰りたくなんかありませんでした。でもつぎの瞬間には、もうトンネルを通って戻るところで、そこで目が覚めてしまったんです。でも、あれはすばらしい体験でしたね。
 あのときは、まだ一緒に暮らすときじゃなかったけど、いつかその日が来るんです。いつかみんなにまた会えて、話ができると思うと、とてもうれしかったです。チャーリーがすばらしいところにいて、私の両親にかわいがられていることも、わかりましたしね。

  ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)
   徳間書店、1999、pp.169-170






 b-54 (グラスが三回音をたて霊界の妻からのことばを聞く)

 (ミズーリ州の大学で音楽教授をつとめるジェイムズは、がんのために四十三歳で世を去った妻のクリスチナと、こんな心の通うひと時を過ごした。)

 クリスチナの葬式がすんだ晩だった。明け方四時ごろに目が覚めて、コーヒーをいれにキッチンへ行った。カウンターのコーヒーメーカーのそばに、グラスがいくつか置いてあった。
 そのとき、ふいにグラスの一つが、チン、チン、チンと三回音を立てた。はっきり規則正しく三回鳴ったんだよ。ぎょっとするほど大きい音だった。一瞬立ちすくんでしまったが、それから体を右や左に傾けてみたりして、そのせいでキッチンの何かが動いたり、鳴ったり、音を立てたりしないかどうかを調べてみた。でも、何も起きなかった。
 そのときだった。何かとてもあったかいものを感じるのと同時に、クリスチナからこんな言葉が伝わってきた。
 「ありがとう、あなた。あたしはもう大丈夫よ」
 そのときわかったんだ。彼女はもうすっかり楽になって、あの激しい痛みや悲しみから解放されたんだ、つて。
 きっと彼女は、礼が言いたかったんだね。何年も心をこめて看病してくれてありがとう、って。彼女の精神がまだ働いているということが、よくわかったよ。彼女は思考できるし、何かことを起こすことだってできる。それに、ユーモアのセンスも失っていない。
 この出来事が、音に関係してるところが気に入ってるよ。なぜってぼくは音楽家だし、クリスチナもそうだったからね。あれは絶対に、幻覚なんかじゃない。実際に起きたことだと信じているよ。あのとき、ぼくは深いやすらぎと、驚きと、喜びを感じたんだ。

  ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)
    徳間書店、1999、pp.196-197






 b-55 (癌の痛みで自殺した祖母が私に告げたこと)

 (フロリダ州で看護補助員をしているマリリンが、祖母の突然の訪問にひどく当惑したのは、まだ十七歳のときだったという。)

 母が再婚して、私は新しい父の養女になりました。新しい祖母は、私をとてもかわいがってくれたんです。私がよそ者だって思いをしなくてすむように、いつも気を遣ってくれたりして。でもかわいそうに、祖母は悪性の脊柱腫瘍になっていて、それは本当に痛みが激しいらしいんです。腰もすっかり曲がっていました。
 ある晩、早めにベッドに入ってうとうとしていたら、いきなり部屋じゅうがわっと明るくなって、そこになんと祖母が立っているんですよ。しかも、背筋を伸ばしてまっすぐ立ってるんです。
 祖母はバラの棚の下に立っていて、まわりには、きれいな花がいっぱい咲き乱れていました。足元には霧がかかってて、背後には真っ青な空に、ふわふわの白い雲が浮かんでいるんです。
 祖母はこう言いました。
 「マリリン、お母さんに伝えておくれ、あたしはとってもやすらかな気持ちだよ、つて。それに、あたしがなぜ死んだかもわかってほしい、つてね。こっちでは、先に死んだ人たちと一緒にいるのよ。マリリン、あんたもいつかこっちに来たら、この愛とうれしさがわかると思うわ」
 「おばあちゃん、なんでそんなところにいるの?」と聞くと、「やっとやすらぐことができたんだよ。だから、お母さんにそう言っておくれ。手紙に書いたことも、どうかわかっておくれとね」ですって。私には何のことか、わかりませんでした。
 泣いていたら母が飛んで来て、「何があったの?」と聞かれました。「おばあちゃんに電話してちょうだい」と言うと、母は「なに言ってるの。もう十時十五分よ。おばあちゃんはとっくに寝ちゃったわよ」って。「でも電話したほうがいいわ、きっと何かあったのよ」って、しっこく頼んだんです。
 母が祖母の家に電話したら、もう一人の孫のルーシーが出て、電話口で泣いてるんです。十分ほど前、窓に灯りがついてるのが見えたから、立ち寄ってみたら、寝室でおばあちゃんが亡くなっていたって。
 悲しかったのは、祖母が自殺していたということです。がんの痛みが激しくて、もうどうしても耐えられなかったらしいんです。お葬式の衣装が出してありました。ドレスも靴も、何もかも。それと、どうか赦してほしい、っていう意味の、みんなにあてた手紙が残してありました。

   ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)、
    徳間書店、1999、pp.224-225





 b-56 (自殺した恋人の母親が現れて私に教えてくれたこと)

  (ディアドリは三十一歳、ヴァージニア州に住むコンピュータの専門家である。恋人の母親ががんの苦しみの果てに自殺をはかり、それから半年後に彼女のもとを訪れて、人生を大切にするように諭していった。ディアドリが二十一歳のときのことだ。)

 恋人のテリーとうまくいかなくなって、とても落ち込んでいたんです。「私の人生の目的って一体何だろう」って考えはじめたら、頭も心も混乱して、何もかも嫌になって、「もうやっていけない」って思うようになりました。
 ベッドに寝転んでいたら、暗闇の底にいるみたいで、つくづく「どん底だな」って思いました。どうしようもなく泣けてきて、「もう死のう」と思いました。泣いて、泣いて、とうとう泣くことすらできなくなりました。
 明け方の五時ごろでした。淡い水色の霧のような光が廊下にあらわれたと思ったら、こっちへやって来るんです。高さが一メートル近くあって、幅が三十センチくらいの楕円形の光でした。床から一メートルくらいのところを、すべるようにやって来ます。
 目を閉じたら、テリーのお母さんが私の心に話しかけてきました。元気なころ話をしたときと、何も変わりませんでした。
 お母さんはこう言うんです。
 「あなたが自殺したって、あなたのご両親もテリーの家族も、さっぱりわけがわからないだけよ。人生はとても貴重なものなの。だから簡単に投げ出しちゃいけないわ。それにあなたは愛されているのよ。死んだらみんながどんなに悲しむでしょう」
 それからお母さんは、こうも言いました。
 「第一、自殺したって何の解決にもならないのよ。あたしはまちがっていたわ。だからあなたには、同じまちがいを犯してほしくないの」
 お母さんに抱きしめられ、すっぽり包まれたような気がしました。体の奥に、温かいものがわきあがってくるのがわかりました。そんな感じは、はじめてでした。勇気をもらったような気がしました。私は何でもできる、やりたいことなら、きっと何でもできる・・・・・そんな気がしたんです。ふと気がつくと、光は消えていました。

   ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)、
     徳間書店、1999、pp.293-294





 b-57 (霊界の夫から死んではいけないと諭される) 

 (ヴァージニア州に住む二十九歳の空軍下士官ボビーは、同じく空軍下士官だった夫のスコッティを脳腫瘍で失った。)

 夫が亡くなったときは、それはつらかったです。私たち二人の夢も全部いっぺんに消えました。自分が真っ二つに切り裂かれて、この世のどんな薬もその痛みを止められない、そんな感じでした。本気で自殺を考えたことも、二度や三度じゃきかなかったでしょう。生きて息をしていることさえ、つらかったんですから。
 泣けて泣けてどうしようもないとき、ときどき彼がなぐさめに来てくれました。「いいんだよ、泣きなさい。きみのためには泣いたほうがいいんだから」って言うんです。心配してくれてるのがよくわかったし、泣きたいだけ泣いたあとは、たいていいつも抱きしめてくれました。腕に抱きしめられるのを実際に感じたんです。
 でも、自殺の方法を考えはじめたりすると、いきなりお説教になるんです。「そんなことしたって、何も解決しやしないよ。苦しみはなくならないんだよ」って。
 部屋に閉じこもっていると、叱りつけられました。
 「こら! 尻を上げろ。そんなところに座り込んで自己憐憫に浸っていたって、どうにもならないぞ。何もしないで、のらくらしてちゃだめなんだ!」
 私だって言い返しましたよ。「なによ、言うのは簡単よ。いいわよね、あなたは死んじゃったんだから。あたしは生きているの。これから一人で生きていかなきゃならないのよ」
 すると彼は、こう言いました。
 「そうだよ、きみは生きているんだよ。だから生きている人間らしくしていなきゃならないんだ。生きながら死んでちゃいけないんだよ」
 スコッティは、いつも人生を十二分に生きようとした人でした。この出来事は、「必要なときには彼が必ずそばにいてくれる」っていうことを、証明してくれたんだと思うんです。おかげで、いまの私はもう癒されつつあるし、自分の人生をちゃんと見つめています。だからもう、彼を行かせてあげられるんです。

    ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)、
       徳間書店、1999、pp.296-297





 b-58 (死後4か月の父親が娘と孫の部屋に現れる)

 (ヴァージニア州でボランティア活動をしている三十九歳のレズリーは、父をがんで失ってから四カ月後、こんなうれしい再会をした。)

 ベッドに入って灯りを消したとき、父がドアの前に立っているのが見えました。家じゅうの灯りが消えているのに、父の姿だけははっきりと見えるんです。体のまわりが光を放ってるんですよ。
 これは本当にお父さんだ、本当にお父さんがきているんだわ、と思いました。これは大変なことが起きたと思って、胸がわくわくしてきて、ベッドに起きて「お父さんなのね」と呼んでみました。そばへ行って体にさわりたいと思って、ベッドから出ようとしました。
 すると父はにこにこしながら、「いやいや、さわるのは勘弁してくれ」って。私は泣き出しながら、「そばへ行かせてよ。いいでしょう? ねえ、いいでしょう?」と何度も頼みました。でも父は、「いや、それはできないんだよ」って。それからこう言いました。
 「ちょっと言っとこうと思っただけさ、私のことは心配するなって。このとおり元気に、何不自由なくやってるからさ。それに、いつだっておまえたちのそばにいるからな」
 そこで父はちょっと口をつぐむと、しばらくして「それじゃあ母さんとカーティスの顔を見てくるか」と言って、出て行こうとします。カーティスというのは私の息子で、となりの部屋で母と一緒に寝ているんです。私はあわててベッドを降りて、父を追って廊下へ飛び出しました。でも、もう父の姿はありません。かき消すように、いなくなっていたんです。
 ベッドに戻って、これは悲しみのせいだ、死んだお父さんが来たりするわけがない、って何度も自分に言い聞かせました。そして、あっちこっち寝返りを打っているうちに、いつのまにか眠ってしまったんです。
 朝になって起きて出ていくと、カーティスも廊下に出て来ました。カーティスはそのとき三歳で、もうすぐ四つになるところでした。その彼が、「ママ、きのうおじいちゃんが来たよ」と言うんです。私はしばらくぽかんと口をあけたまま、ただ息子をながめました。「本当?」と聞くと、「ほんとだよ、お部屋に来てくれたんだよ。ベッドのそばに立ってたよ」って。
 三歳の子どもが、そんなつくり話をするとは思えません。「夢じゃないの?」と聞くと、「違うよ、お目めあけていたもん。ぼく起きてたもん。おじいちゃんに会ったんだもん!」って。
 父は、やっぱり来ていたんです。どう考えてもまちがいのないことでした。私にとってはすばらしい体験でした。愛は不滅なんだとわかりました。

   ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)、
      徳間書店、1999、pp.308-310





 b-59 (事故で亡くなった4歳の息子がドアを通り抜けて現れる)

 (ランダルは、カリフォルニア州に住む大学教授である。四歳の息子ティモシーを自動車事故で失ってから二週間がたったとき、彼の生命観は一変した。)

 一日一日が身の置きどころのない不安と、ゆううつとショックとの闘いだった。私は息子が死んだという現実を否定する状態と、受け入れる恐ろしさとの中間であがいていた。「彼は二度と戻ってはこない」という思いから、必死で逃げていた。
 葬式がすむのを待ちかねるようにして、仕事に戻った。毎日、帰宅して、庭に入るのが恐ろしかった。彼がそこにいないことがわかっていたから。そういう現実と、向かい合わなければならないことがわかっていたから。
 そんなある日のことだ。家に帰ってから、暖炉のそばの椅子に腰かけて、ぼんやり玄関のドアをながめていた。ちゃんと目は覚めていたと思う。だしぬけに、ティモシーがドアの向こうから入って来るじゃないか! ドアは開かなかった。ドアを通り抜けて来たんだよ。
 まるで生きているみたいな、ちゃんとした体に見えた。亡くなる前と、どこも変わっていなかった。なんとも楽しそうな、すばらしく幸せそうな顔だった。だが白い服を着て、明るいオーラを発しているんだ。光に包まれているっていうか、いや、光が彼のいるあたりに広がっているんだね。後光のようなものじゃなくて、体自体が、すばらしく明るい白い光を放っているように見えるんだよ。
 息子はぼくの目の前までやって来て、こう言った。「ぼくはもう帰って来ないよ。もう行っちゃったんだから。それをちゃんとわからなきゃね」きつい言い方だった。だけど紛れもなくあいつの声、あいつの口調なんだよ。
 私が椅子から身を乗り出すと、息子は「ぼくは元気だし、何も心配ないからね」と言って、そのまま消えてしまった。立っていたその場所から、ただふっと消えてしまったんだ。
 そのときを境に、もう現実を否定することはなくなった。息子は行ってしまって、もう二度と戻ってこない、ちゃんとそう思えるようになった。もう二度と会えないとしても、それを直視できるようになった。だけどそれは、明らかに、彼が事実上まだ生きていることを、確信できたからなんだ。
 悲しさは変わらないし、つらいのも同じだった。だけどその悲しみの中に、喜びと希望が混じるようになった。そのときからぼくは、少しずつ癒されていったんだね。

   ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)
     徳間書店、1999、pp.321-323





 b-60 (娘を殺した者のために祈ってほしいと言われて) 

 (中西部で機械設備の請負業を営むロブは、二十六歳の娘ボニーが殺された時、自分の人生がこなごなに砕け散ったように感じた。)

 ボニーが殺されてからというもの、私は自己憐憫と憎しみのかたまりだった。この世には神も正義もないと思った。「娘を殺した男をこの手で殺してやりたい」という思いで、頭はいっぱいだった。
 ボニーを埋葬した日だった。家に戻ってくると、人が大勢集まっていて、いたたまれなくなって逃げ出した。
 裏庭にたたずんでいたら、ふいにボニーがいる気配がする。振り向いたらそこにいるんじゃないかと思うくらい、はっきりしていた。そのとき、後頭部から思念が入って来たのがわかった。ボニーの声を聞いたかと思うくらいだった。
 ボニーがこう言って懇願しているんだ。「お願いよ、お父さん、私を殺したあの人のために、祈ってちょうだい」
 「冗談じゃない」と私は娘に言った。「一体何を言い出すんだ。そんなこと、できっこないだろう。あいつのために祈るなんて、あいつを赦したのと同じじゃないか。そんなことできるもんか!」
 するとボニーは、「祈るのは彼のためじゃないわ、お父さんのためなのよ」と。娘は私に、「自分のために祈れ、自分が正気でいるために祈れ」と言っていたんだよ。娘が懇願する気持ちは、よくわかった。なぜなら私はそのままだったら、たぶんその男を殺しているか、頭が変になるかのどっちかだったから。それだけ言うと、娘は消えた。
 そこに立ったまま、その出来事が何だったのか考えた。どう考えでも、娘と話をしたとしか思えなかった。どう考えでも、それにちがいなかった。
 家に入ると、家内が知り合いの女性と一緒に寝室にいたから、私は二人の手を握ってこう伝えた。「いまボニーに祈りなさいと言われた。あの男のために祈らなきゃいけない」と。三人で、祈りの言葉を唱えたよ。
 それから半年と少したったころ、私はいよいよ病院行きになりかけていた。「あの男をどうやって殺してやろうか」って、相変わらず、そればっかりが頭を占領していた。ある晩とうとう、すがるような思いでボニーの墓へ行った。墓の前に立って、この事態が一体何なのか考えようとした。するとまたふいに後頭部から思念がやって来て、私の中へ流れ込んだ。
 ボニーが、こう言うのが聞こえた。「お父さん、私はここにはいないのよ。土の中にはいないの。どうかもう悩まないで。私は元気なんだから」とてもしっかりした、とても穏やかな、とてもやさしい声だった。まるで、賢いおばあさんが孫に語りかけているようだった。
 「早くおうちへ帰って、お母さんを手伝ってあげて。さあ早く、ぐずぐずしないで体を動かして。そうしなければ、何も変わっていかないわ。それからお父さん、忘れないで。私を殺した彼のために祈るのよ!」娘は、私の頭が変になってしまうのを何とかしようとしていたんだね。それだけ言って、また消えてしまった。
 その後、「アルコール依存症患者更生会」の十二段階プログラムを受けている友人が、助けの手を差し伸べてくれた。家内もよく助けてくれた。結局そんなこんなで、あれを境に、私は徐々に自分の人生を取り戻していったんだ。
 そのうち、あの男を殺したいという気持ちも、ついになくなった。いまはもう、復讐なんてことを考えて暮らすのは、二度とごめんだと思っているよ。

   ビル&ジュディ・グッゲンハイム『生きがいのメッセージ』片山陽子訳(飯田文彦編)、
      徳間書店、1999、pp.329-331